スザルル新婚さん小説

□ぷちバレンタインパニック一話
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「はあ…」

盛大なため息とともに、ヴィレッタの華奢な指先がカタカタとリズミカルにキーボードを叩く。
ジェレミアズスイーツショップの頭脳と呼ばれる(…とスザクが勝手に呼んでいるのだが)彼女は、さっきから店の奥においてあるノートパソコンでなにやら作業をしていた。
忙しくないからいいとは言いつつも、たった一人で接客を任されるのは心もとない。
ちょうど客足がひけたのをいいことに、スザクは忍び足で近寄り、パソコンの画面を覗き見た。

「…バレンタインの予約リスト?」
「なんだ、枢木。店をほったらかして油を売るとはいい度胸じゃないか」
「あ、油を売ってるのはヴィレッタさんだって同じじゃないですか」
「ふんっ」

なんだかやけに機嫌が悪い。
ヴィレッタという人は、もともとそう愛想がいい方ではないのだが(客に対しては一応それなりの愛想は持ち合わせているものの)、どうやら今日は相当きているようだ。

(…ついにジェレミアさんに愛想をつかしたとか?)

パティシエとしての腕はともかく、傲慢大魔王のジェレミアは、この店のオーナー。
ヴィレッタは、ジェレミアのパティシエとしての腕にほれ込んではいるようだが、それにしたって耐えられないこともあるだろう。
スザクはヴィレッタの肩にぽん、と手を置くと、

「ヴィレッタさん、そう思いつめちゃ駄目ですよ。人生長いんですから、嫌なことも一つや二つ…!?」
「生意気な口だな、枢木。そういう口はこうしてやろうか」
「…い、痛いです」

思い切り唇をつねられた。
あんまりだ。人生の真理を教えてあげようと思ったのに。
涙目で睨んでいると、「これがため息をつかずにいられるものか」とヴィレッタは美しい面を曇らせる。
細い指が指差した先は、パソコンの画面。
まさしく、バレンタインの特製チョコケーキの予約者リストだった。
人数は限定しておらず、期間を区切って予約をとっていた。
その総数、なんと150人。
天才パティシエ・ジェレミアの手による特製チョコケーキ(もちろん使用しているのは高級チョコ)に、お好きなメッセージを入れてくれるというものだ。
予約がいっぱいくるなんて、店としては喜ばしいことなのに…。
スザクは首をひねる。

「何がですか? 予約がいっぱいきて安泰じゃないですか」
「バカ。それが面倒だと言っているんだ」
「面倒って…?」

面倒も何も、ケーキを作るのはジェレミアだ。
こちらとしてはひたすら売るだけで、猫の手も借りたいくらいの忙しい状況は、すでにクリスマス商戦で体験済み。どうってことはない。
ヴィレッタにいたっては、超ベテランだというのに?

「…本当に分からないのか、枢木? やっぱり男はバカだな。このメッセージを見てみろ。クッキープレートにメッセージを書くのは、半分は私もやらされるんだぞ? しかも、ラッピングも…。これが面倒でなくてなんだというんだ? 全く…」

ふん、とヴィレッタが唇を尖らせている。
意外と可愛いところがあるんだな、とスザクは思った。
もちろん、スザクの大切な恋人、ルルーシュには足元にも及ばないけど…と思ったのは、内緒だが。

「いいじゃないですか。一年に一回の可愛いイベントなんだし。ヴィレッタさんだって、チョコの一つやふた…、ぐえっ…」
「どうして私が男にチョコなど送らなくてはいけないんだ。生意気だぞ、枢木」

容赦のない肘鉄。
突きどころが悪かったらどうするつもりなんだ!?
一応睨みをきかせてみるものの、もちろん動じるわけもなく。
ヴィレッタは、しれっとした顔で、無作為にリストを読み上げ始めた。

「…カレン・シュタットフェルト。おい、こいつはお前の大学の友人じゃなかったか?」
「へ、カレン…ええ、まあそうですけど…?」
「なになに…『大好きなおにいちゃんへ。これからもカレンの優しいお兄ちゃんでいてね』だと? 本当のアニキなのか? イマドキは、「お兄ちゃん」と呼ばれるだけで喜ぶ男も多いそうじゃないか。何かのプレイじゃ…」
「ちょ、ちょっと…ヴィレッタさ…」
「あとは…シャーリー・フェネット。これもお前の友人だろう? こいつなんて…『世界一大好きなパパへ。これからも元気で、またシャーリーとデートしてね』だそうだが…。他人の父親じゃないのか? お前たちの年齢では援助交際なんてざらなんだろう?」

うわ、なんてことを!?
スザクは思わずあたりを見回す。
よかった…。お客さんがいなくて。
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