両手いっぱいの花束を君に(1話〜30話)

□両手いっぱいの花束を君に七話
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楽しそうな家族連れ。仲睦まじげな恋人たち。
分かっていたことだけれど、休日の街はそんな幸せそうな人々であふれかえっている。
楽しそうな彼等の姿は、スザクの心は憂鬱にした。
本当は…隣にルルーシュがいるはずなのに。
次の休みには一緒に遊びに行こうね、と約束していたのだから。

(怒っているだろうな、ルルーシュ…。置いてきちゃったし…)

おそらくルルーシュはその気でいただろう。
特に何も言ってはいなかったけれど、夕べ寝る前に外出の用意をしていたようだった
し、「何時に起きる?」と訊いていたし。

なのに、スザクはルルーシュのことを置いて出てきてしまった。
ほとんど衝動的に。

もちろんスザクだって最初は一緒に出かけるつもりでいたのだ。
だけど。

(もう…駄目かもしれない…)

理性の限界、かもしれない。そう思った。
朝だよ、と起こそうとすやすやと眠っている彼女の側に近寄った時、スザクは衝動的
にルルーシュにくちづけようとしてしまったのだ。
子供の頃の夢でも見ていたのか…、ルルーシュの珊瑚色の唇が小さく微笑をたたえ、
スザクの名前を呼んだ。
かすかに乱れたパジャマの隙間から見えるまぶしいほどの素肌。
もし、あの時小鳥のさえずりが聞こえなければ、あのまま…。

時々、自分が恐ろしくなる。

ただ側にいるだけで。
ふと、その唇にくちづけたくなるから…。
ふと、その細い身体をふと抱きしめたくなるから…。

(ルルーシュが…僕に求めているのは違うものなのに)

あの生徒会室での一件。
リヴァルの話では、ルルーシュはスザクが自分をさけているのだと、悩んでいたらし
かった。
もちろんそんなつもりなかった。
けれど、同じベッドで寝ようとか、一緒にお風呂に入ろうというスザクにしてみたら
「ありえない」誘いを断ったことが、ルルーシュを傷つけていたようなのだ。

『まあ…普通俺らくらいの年だと友達同士で寝たりとか風呂入ったりとかあんまりし
ないけどさ。別に男同士なんだし、たまには言うこときいてやったら? ルルーシュ
はスザク限定の甘えたみたいだし』

あまりに元気がなかったことを気にしたらしいリヴァルは朗らかな口調で言った。
そう出来たらどんなに楽だろう。
けれど、いくらルルーシュが望んでいるからって出来るわけないじゃないか。
だって、女の子なのだ。ルルーシュは。
そして、スザクは彼女に恋しているのに。
そんな相手とベッドを共にするとか、ましてやお風呂に一緒に入るなんて出来るはず
がない。
スザクだって、聖人君子ではない。ただの男なのだ。
かりにもし…そうした時に、自分がどうなるのか分からない。
そう、あの時だって。

あの時、気分の悪くなったルルーシュを保健室に連れていこうと細いからだを抱き上
げた時。
怖がってぎゅっとしがみついてきた華奢な腕。
甘い髪の香り。
全てがスザクを高ぶらせて、くちづけたいという衝動を抑えるのにどれだけ苦労した
ことか。
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