両手いっぱいの花束を君に(1話〜30話)

□両手いっぱいの花束を君に八話
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よろしくお願いします、と言われても…正直言って困る。
悪い人に追われているのだというわりには、ユフィには緊張感が全く感じられないし、
目の前の全く知らない女性よりも、スザクはルルーシュの方が大事なのだ。
冷たいかなと思わなくもないが、仕方ない。

「あの…本当に誰かに追われているんですか? もし…そうなら、僕みたいな一般人
よりも、軍か警察に保護してもらった方がいいですよ。警察署までなら送りますから」

スザクの言葉をうんうんと聞きながらも、ユフィは特に気にする様子もなく。

「いいえ、そんなものものしいものじゃないんです。かえって目立つと困るので…出
来れば少しの間一緒にいて下さると嬉しいのですけど。あの、新宿に行ってみたくて」
「いや…あの…」

ユフィがきらきらした瞳でこちらを見上げてくる。
随分と無邪気な人だ。スザクよりはいくらか年上のように見えるが、いとけない少女
のように見える。
困って頭をぽりぽりかいていると、ユフィはさらに、

「新宿が駄目なら渋谷はどうでしょう? 若者が集まる街なんでしょう? 実は、久
しぶりに会う妹にお土産を買いたくて」
「…いや、…その…僕はですね」
「私と一緒は嫌ですか、スザクさん?」
「はあ…その…」

ユフィと一緒が嫌、という問題の前に、こちらの都合は訊いてもらえないのだろうか。
新宿も渋谷も、スザクは用などないし、そんなところに寄っていたら、ルルーシュの
元に帰るのが遅くなってしまう。
わざわざメールで「もう口きかない!」なんて言ってくるあたり、ルルーシュは早く
スザクに帰ってきてほしいのだ。
素直に「帰ってきて」なんて言える性格じゃないから…。

自分でも分かっているのだが、スザクはどうしても女性に強く出ることが出来ない。
おそらく、母親を早くになくしているから、女性に対する接し方がよく分からないの
だと思う。
ユフィのように押しの強いタイプには、特に弱いのだが…かといって、今はそんなこ
とを言っている場合ではない。

「ユフィ、申し訳有りませんが、あなたと一緒が嫌なのではなくて、僕は用事がある
んです。人を待たせているから、早く帰らないと」
「まあ、人を。…あの、それって、デート…ですか?」

ユフィが残念そうにそう言って、瞳を伏せた。
デート…ならどんなにいいだろう。だけど、スザクにとっては何よりも大切な用事だ。

「残念ながらデートではないんです。…その、もしそうだったらいいなと思うけれど。
でも、とても大切な人なんです」
「…大切な方。スザクさんはその方がお好きなのね。でも、相手の方は…」

皆まで言わずとも、何を言おうとしているか分かる。
悪気はないだろうが、ユフィは遠慮というものを知らないようだ。
よく分かっている。
自分の片思いだなんて。
だが、あらためて確認するようにいわれたら、スザクだって傷付く。
スザクは「とにかく急ぐので」とすっぱりと話を切ることにした。
それで終わりのはず…なのに。

「あ、待って下さい。スザクさん。今日は…お約束があるようでしたら仕方ないんで
すけれど、これから…またいつかでいいから、会って頂けませんか? 私、エリア1
1には不馴れで、知り合いもいないし」
「…妹さんがいらっしゃるんじゃ?」

さっき、そう言っていたはずだ。
スザクは眉をひそめた。
さすがにここまで食い付かれると戸惑う。

「ええ、いるにはいますけど…」
「なら、妹さんに案内してもらってはいかがですか? 僕は…学生寮に入っているの
で、それほど自由に外出できるわけでもないので」

実は嘘だ。
外泊はもちろん届けが必要だが、門限に帰ってくる分には外出は自由だ。
だが、嘘も方便と言う。
自由に動ける身だと分かれば、ユフィはさらに食い付いてくるかもしれない。
まだ会ったばかりで、彼女の何も分かっているわけではないし、第一印象だけで人物
を決めてしまうのはよくないとも思う。
だが、正直、ユフィは苦手なタイプだと思った。

(早くルルのところに戻りたいのに…)

なぜユフィは出会ったばかりの自分にこんなにも執着してくるのだろう。
理解できない。
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