両手いっぱいの花束を君に(1話〜30話)

□両手いっぱいの花束を君に九話
1ページ/3ページ

「ルルーシュ!」

明るいピンク色の髪を揺らしながら、ユーフェミアがこちらに向かって走ってくる。
教師として着任した彼女は当然のことながら、本当に身分を隠している。だから、ル
ルーシュと姉妹であることももちろん周りには内緒だ。
それなのに、あんなふうに大声でルルーシュの名前を呼んだりして。
スザクははらはらしながら、あたりを見回す。
だが、ルルーシュはあまり気にしていないようだった。さすがは姉妹というところだ
ろうか。

「ユーフェミア姉様! 姉様が教室に入ってきた時はびっくりしたよ。どうして先に
教えておいてくれなかったの?」

拗ねたように言うルルーシュの頬に、薄いピンク色の唇が親愛のキスをのせる。
手をのばし、つややかな黒髪を優しく撫でながら、ユーフェミアは微笑する。

「ごめんなさい。でも…ルルーシュの驚く顔が見たかったから。許して。ね? それ
とも、ルルーシュは私にあえて嬉しくない?」
「そりゃあ、姉様と会えるのは嬉しいけど…」

ルルーシュと話す時には、街で会った時よりも幾分大人びて見える。
どうやら、彼女はルルーシュのことをとても可愛がっているようだ。

(まあ…こっちに来るのも彼女が手助けしてくれたっていうし…。そういえば、体育
のことも彼女に何とかしてもらったんだっけ…)

ほわんとした見た目と違い、それなりに力を持っているらしい。
ユーフェミアはちらりとスザクの方に視線を送ると、うっすらと微笑みかけた。
どこか意味ありげな微笑にひっかかるものを感じ、スザクは無表情のまま、軽く会釈
を返す。
ルルーシュが、「あ」と小さく声をあげ、「姉様、彼が…」とスザクを紹介しようと
した。
ユーフェミアはそれを遮り、

「あ…スザクさんとはもうお会いしたのよ、ルルーシュ」
「え…? スザクと…? いつ…?」
「昨日よ、街でお会いしたの」

ルルーシュがスザクに問いかけるように視線を投げた。
嘘ではないから、スザクは小さく頷いた。

「でも、まさか彼女がルルのお姉さんだとは知らなかったよ。たまたま店の前でお姉
さんが僕にぶつかって、少し話した…」

ユーフェミアの細い指が一本、スザクの唇に押し当てられる。
にっこり笑って、

「お姉さんじゃありませんわ。ユフィと呼んでくださらなくちゃ」
「…はあ」

いきなり何をするんだ? 
スザクは戸惑う。
言い直させるにしても、口で言えばいいんじゃないだろうか。
昨日知り合ったばかりだというのに、やけに親密な態度にどう対応していいか分から
なくなる。
相手はルルーシュの姉だから、そう冷たくも出来ないが…。

スザクははっとする。
そうだ! すぐ側にルルがいるっていうのに。
一体どう思われただろうか?

「ルル…これは…」
「…二人は、いつの間にそんなに仲良しになったの?」

スザクの言葉を遮るように、ルルーシュが訊いてきた。
仲良しも何も、本当に昨日会ったばかりなのに。
何だか誤解されているような気がする。違う、そんなんじゃないとスザクは首を横に
振る。

「…い、いやっ…僕は…」
「いいえ、ルルーシュ」

そして、さらに弁明しようとするスザクを、今度はユーフェミアが遮る。
思わず睨み付けるが、少しも動じた様子はなく、

「まだそんなに仲良しさんではないのよ。わたくしは、スザクさんと仲良しになりた
いと思っているけれど」

仲良しになりたい??
昨日会ったばかりなのに?

「…あの…、あなたは…」
「ユフィ、ですわ。そう呼んでくれなくては嫌」
「…………では、ユフィ」

何が何でも、スザクに愛称で呼ばせたいらしい。
頑固で強引なところは、ルルーシュに少し似ているかもしれない。
だが、違うのは、スザクが相手に対して抱いている気持ちだ。
ルルーシュにはどんなに強引にされても許せるが、出会ったばかりで何とも思ってい
ないユーフェミアに対しては、不快感しか抱けない。

「どうして、そう思われるんですか? 僕は…よく理解できないのですが」
「でははっきり申し上げますわ。わたくし、あなたのことが好きになってしまったん
です」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ