両手いっぱいの花束を君に(1話〜30話)

□両手いっぱいの花束を君に十話
1ページ/2ページ

「…話は聞きました。だから、その手を離して頂けますか、ユフィ」
「ええ…、そうですわね」

呆然として告げたスザクに、ユーフェミアは素直に従った。
小首を傾げ、じっとこちらを見ている。
自信に満ち溢れた表情。
皇族としてその身に国民の尊敬を一心に受け、愛されることに慣れているのだろう。
おそらくは、スザクの口から否定の言葉が紡がれることなど、思いつきもしないのだ。

こんなふうに。
ある日、ルルーシュも、こんなふうに誰かに告げるのだろうか。
『心から信頼できる相手を探していた。私の騎士に、そして夫になってほしい』のだ
と。
心臓をナイフでえぐられたような気分だ。

「今ここでお返事を望まれているでしょうから、お答えします。ユフィ…いえ、ユー
フェミア皇女殿下。僕はその申し出をお受けすることは出来ません」
「理由を聞かせて頂けて?」

少しも動じた様子もなく、ユーフェミアは訊ねた。
スザクははっきりとした口調で告げる。

「愛している人がいるからです。ずっと、幼い頃からずっと、その人のことだけを想っ
ていました。だから…」
「その方は、あなたのお気持ちをご存知なのですか?」
「…いいえ…」

柔らかな微笑を浮かべながら、ユーフェミアは痛いところをついてくる。
相手が女性でなければ、ルルーシュの家族でなければ、殴り掛かっていたかもしれな
い。
憤りを必死におさえながら、スザクは冷たい声で「けれど、それはあなたに関係のな
いことです」と返した。
ユーフェミアは何かに気付いたように、

「ごめんなさい。わたくし、言ってはいけないことを口にしてしまったんですね。あ
なたを虐めようと思ったわけではないのです。ただ、相思相愛でないのなら、わたく
しにもまだチャンスはありますね、とそう申し上げたかったのですわ」

申し訳ありません、と睫毛をかすかに伏せる。
客観的に見て、美しい人だと思った。
けれど、スザクにとってはただそれだけだ。

「チャンスはありません、ユフィ。たとえ、この気持ちを告げることが出来なくても、
僕は彼女だけを愛しているんです。あなたのことは、ルルーシュの姉君としか思えま
せん」

ルルーシュ以外いらない。
たとえ、ルルーシュと結ばれないとしても、他の誰かを愛そうとは思わない。
いや、愛せるはずがない。

「ーー失礼します」

自分でも驚くほどに冷たく言い放ち、身を翻した。
その腕を、再びユーフェミアの華奢な腕が捕まえる。
そして、言った。

「あなたがその方を諦めないように、わたくしもあなたを諦めませんわ」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ