その他スザルル小説

□微笑みの色
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同人誌「騎士と皇女」設定です。
スザク対舅ゼロ+ルルの幸せな風景をお楽しみください。

お題は、「月の咲く空」様(http://eternalmoonsky.nobody.jp/)より頂きました。


***

「微笑み」には、色があるということを、ゼロは最近になって知った。

ーーたとえば。


「うん、今日は早く帰るよ。だから、夕飯は久しぶりに俺が作るから、君はゆっくりしてて。ん? 馬鹿だな。疲れてなんていないって。今は、君の方がずっと大変なんだからさ」

勤務時間中に、堂々と内線電話で、妻へ電話をかける男、枢木スザク。
あいつの微笑みは、間違いなく、ピンク色だ。
それも、趣味の悪い、どぎついピンク色。
決して、上品な桜色ではない。

「もちろん、君の料理は好きだけど…。俺の料理だってなかなかのものだろう?
そんなに心配なら、君が味見して、味付けしなおしてくれてもいいよ。だから、ルル、ゆっくりしてて。わかったかい? …うん、愛してるよ」

受話器にむかって、ちゅっと音をたててキスをする。
何てことだ。後で消毒しておかなくては。
平静な顔を装いつつも、ゼロは、背筋にちょっとした寒気を覚えた。

かつて、神聖ブリタニア帝国に支配されていたエリア11ーもとの名前を日本、現 、合衆国日本。
ゼロは、この国の若き指導者である。

齢18という若年で、ブリタニアの支配からエリア11を解放し、一つの国にまとめることが出来たのは、ゼロが人並みはずれた能力を持っているだけでなく、妹たちへの深い愛情のなせる業であったといえるだろう。

最愛の妹の一人、ルルーシュは、目の前の、気持ち悪いピンク色の笑みをまき散らす男と結婚した。
ルルーシュはゼロとは双子で、同じように優秀な頭脳と能力を持っていた。
ちょっと前まで、ゼロの補佐についていてくれたのだが、最近になって、妊娠が発覚したため、大事をとって、公務から退かせたのだ。

ぬばたまの黒髪とアメシストの瞳。
透き通るような、白い肌をした美しい妹は、ゼロにとっては、自慢の妹だった。
美しいだけでなく、ルルーシュは心優しく愛情にあふれた女性なのだ。

亡き母に似たすばらしい女性。
身内の欲目ではない。本当に、ルルーシュはすばらしいのだ。
それなのに。

(…こいつのどこがよかったんだか…)

ピンク色の笑みをまきちらす男。くるるぎスザク。
悪い奴ではないと思う。
頭はいまいちだが、それは優秀すぎる自分と比べてのことであって、決して馬鹿ではない。
腕っ節はかなり強い。
ルルーシュの護衛としては、役に立つ男だ。
だが。

「ーーゼロ、そっちの書類にはもう目を通したのか?」
「…とっくの昔に終わっている」

すぐ目の前に、どすんと大量の書類を置かれて、ゼロはうなった。
この程度の書類、ゼロの手にかかればどうってことはない。
仕事は嫌いではないし、何より、自分が責任のある立場だということは、重々承知している。
責任ある立場というものは、人の倍以上の仕事をこなさなくてはならないのである。

「なら、早く終わらせろよ。きいてたと思うけど、今日は俺、早く帰るから。ルルが待ってるから、残業は出来ないからな」
「…貴様、いつも早く帰ってるだろうが」

普段、よほど仕事しているようなことを言うけれど、そんなことはない。
枢木スザクという男は、ひどくまじめそうな顔をしておきながら、その実、ルルーシュのためならば、仕事だって平気でさぼる男なのだ。
そう、平気で。
まったくもって、遠慮なく。

「だいたい、残業なんて、能力のない奴がすることなんだよ。わかってるのか、ゼロ? 本当に、君はルルーシュとは似ても似つかないよな」
「き、貴様、私を侮辱する気か!? だいたい、そんなにしょっちゅう残業してないだろうがっ! この間、たまたま遅くまで残したからといって、いつまでもうじうじと…! 騎士道精神も何もあったものではないなっ!」

なんと人聞きの悪い!
ゼロは、くわっと目を見開いた。
いっそのこと、ナイフでも投げてやろうか?
腕っ節は確かに負けるかもしれないが、ダーツの腕には自信がある。
世話係だった直人(今は、ゼロの騎士)に、みっちり仕込まれたからだ。
だが、デスクの引き出しをあさってみるものの、ダーツがない。
壁にダーツボードがかかっているのに、なぜにダーツがないんだ??

「おい、枢木。貴様、引き出しの中を片付けたか?」
「ああ、片付けたよ。仕事部屋におもちゃはいらないからね」

お・も・ちゃ、だと?

しれっとした顔で告げるのに、殺意が生まれた。

「あ、あれはおもちゃではないぞ! 私のストレス解消道具だというのにっ!」
「必要ないだろう? だいたい、きゃんきゃん怒鳴りまくってるくせして、ストレスなんてどこにあるんだよ? 俺を怒鳴り飛ばして、すっかり解消してるだろう?」

解消なんて出来るか!
こっちが何を言っても動じないどころか、反論ばかりしてくるくせに。

いらいらする。
まったくもって、いらいらする。
このままでは、いつか血管が切れてしまうかもしれない。

そんなふうに思った時だった。

「ーーどうしたの? 二人とも」

そっとドアが開き、涼やかな声が二人に呼びかけた。
ルルーシュだ。
白い肌によくはえる、ワイン色のドレスを身につけている。
公務にはついていないし、もっと気軽な格好をしてもいいのだが、昔からの癖でドレスを身につけてしまうのだ、という。
手には、大きなバスケットを抱えていた。
生意気な口ばかりきいていたスザクは、慌てて駆け寄ると、ルルーシュの腕からバスケットを受け取った。

「君こそどうしたんだい? 何か問題でも? こんな重いものを持っちゃ駄目じゃないか」

あわあわと早口でつげるスザクに、ルルーシュは慈愛に満ちた笑みを向ける。

「重いって、大げさだな、スザクは。スザクは早く帰ってくるっていってたけど…その分、兄さまは遅くなるのかなと思って…。差し入れを持ってきたんだ」

ちゃんとスザクの分もあるけどね、と付け加え、ルルーシュはスザクの頬に軽くキスをする。
スザクは図々しくも、さらにルルーシュの唇を奪おうとした。
当然だといわんばかりの態度がむかつく。
だが、聡明なルルーシュは、「ここでは駄目だよ」と出来の悪い夫をたしなめた。

最愛の妹の前では格好をつけたい。
だから、飛び上がって喜ぶなどと幼稚なまねは出来ない。
ゼロは平静を装いながら、心の中で、(ルルーシュ、でかした!)とガッツポーズをとった。
その場で起立すると、ルルーシュに向かって両腕をのばす。

「おいで。ルルーシュ。兄さまにも、キスを」

抱きよせた体からは、甘い花の香りがした。
香水のたぐいはあまり好きでないと言っていたから、おそらくは石けんの香りだろう。
頬に軽く触れた唇のぬくもりに、ゼロは感激する。
とにかく、ゼロはルルーシュが可愛くて可愛くて仕方ないのだ。
お返しに、少々熱烈なキスを返すと、「くすぐったいよ」と華奢な体が腕の中ではねた。
ちらりと視線を投げる。
スザクが般若のような形相でこちらを見ていた。

(…ふ、ルルーシュの前では怒れまい)

ゼロと同じで、スザクは、ルルーシュの前ではとにかく格好をつけたがるのだ。
気取り屋とも言う。
心の中で、そんなふうにスザクを馬鹿にするゼロは、気付いていなかった。
実は、二人はある部分において、とてもよく似ているのだということに。
つまり、喧嘩ばかりしているのは、同族嫌悪に近かったりもするのだ。
二人ともそのことに気づいてはいないのだが。

「サンドイッチ、余分に作ってあるから、食べてね。あと、兄さまの好きなパンプディングも作っておいたから」

ーールルーシュの微笑みは、白。
白薔薇のごとき、純白。
心が洗われる。

「…ルルーシュ、俺の分は?」

すぐ後ろで、スザクがどす黒い、どぶのような色の微笑を浮かべて、問うてきた。
どうしてこうも違うのか…。

「…あるけど。でも」

愛しの妹は、腕の中をするりと抜け出して、役立たずの夫のもとへと歩み寄った。

「スザクは、うちで食べるから。あんまり食べたら駄目」

憎き男に向けられる美しき微笑。
それもまた、美しき純白の微笑みであった。

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