短編

□時の扉
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いつものように起きて、家事をこなして、伝言板を見に行く。
いつの間にかこれが当たり前になっていたことに、今更気付いた。
「リョウ、起きなさーい。」
これもいつものこと。いつもと変わらない毎日。


夕方
キャッツでコーヒーを飲んで、乾いた洗濯物をたたんで、夕飯の支度を始める。
「あ、人参ないや。」
仕方なく駅の近くのスーパーまで買い物に行く。
「もっこりちゃ〜ん。ボキとお茶しませ〜ん?」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえる。これもいつものこと。
でも今日のアタシは何かがおかしいみたいで、いつもならその声に向かってハンマーを振り上げてるのに、今日はそんな声も聞こえないかのようにスタスタ歩く。
その後もリョウがナンパしてる声が幾度となく繰り返されていく。それでもアタシはハンマーを出すどころか、リョウに目もむけない。

もう疲れたよ。もう何もかもが嫌。

声から逃げるように買い物を早足で終わらすと、夕飯を手早く作り終え自分の部屋にこもった。
ベッドに顔を埋めると、知らないうちに涙がこぼれた。自分が何に泣いているのかもわからず、ただただ涙がこぼれた。
「うっ…ひっくぅ…」
次第に声まででてきてしまい、懸命におさえようとするが、無駄だった。

いつまでこの関係でいなきゃいけないの?もういい加減疲れたよ。

そう思った直後、いきなり背後から抱き締められた。
「…何泣いてんだよ。」
間違いなくリョウの声。答えようにも涙がとまらず、何も言えない。

やめて。アタシのことなんとも想ってないなら、そんなことしないでよ。

そんな想いが伝わったのか、リョウが無理矢理アタシを自分の方へむかせた。
「俺は…お前を愛してる。」
驚きのあまり涙もとまった。リョウが今何を言ったのか理解ができない。
ただ唖然とリョウを見るアタシに、リョウは少し笑ってキスをしてきた。
軽く触れるだけのキス。
「香、待たせてごめんな。」
そんなことを言われれば、嬉しさとホッとしたのとでまた涙が溢れる。

「ったく。泣くなよな…。」
リョウはアタシに気のすむまで泣いていいぞと言うように、抱き締めてくれた。

待ってて良かった。リョウ、大好きだよ。

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