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□初恋シリーズ
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小さい頃はよく遊んでた。



年も同じだし、家は向かいだし。



所謂幼なじみってやつだから、遊び相手は彼だけ。



でも、中学生になってからはほとんど口も利かなくなって。



高校も別々になったから、話はおろか会うことさえ稀になった。



時々見た彼の隣りには、可愛い女の子が居て。



……見る度に違う子を連れてるのはちょっとアレなんだけど。



ゾロが遠い存在になったのを、私はひしひしと感じてる。



あの頃は誰よりも近い存在だったと思うけどさ。



時が経てば、いろんなものが変わっちゃうんだ。



でも、変わらないのは私の気持ち。



小さい頃からずっと、ゾロを想う気持ちだけは変わってないんだ。



もちろん、それをゾロは知らない。



ただ、今でも淡い初恋を捨てたくないだけなの。



「……うわ、雨…」



そんなな気持ちを抱えたある雨の日。



持ってきた折りたたみ傘を広げて、帰路に着く。



結構な雨で、跳ねる雨粒が靴下をも濡らしてた。



バチャバチャバチャ…!



「…?」



家の近くの住宅街で、後ろから響く足音。



豪快なそれに振り返れば、ずぶ濡れの彼が走ってた。



「お、名無し」



「ゾロ」



「ちょうどよかった!傘、入れてくれ!」



「……いいよ」



久しぶりに会ったゾロは、背も大きくてピアスを開けてた。



でも、傘に入って安心した顔は子供の頃とちっとも変わってないから。



何だかあの頃みたいで気恥ずかしい。



「久しぶり、ゾロ見たの」



「あァ。お前ちっとも変わんねェな」



「…ゾロは変わったね」



「そうか?」



うん、変わったよ。



全然知らない男の人になっちゃったよ。



私が知ってるのは、ずっとずっと昔の、子供だったゾロだもの。



「へっくしゅ!」



傘の中で、ゾロがくしゃみをした。



ズズッと鼻を啜るゾロは、全身ずぶ濡れで。



張り付いた制服が彼の体温を奪ってるのは、明らかだった。



「…はい、これ」



可哀相で、気休めとわかっててハンカチを差し出す。



「サンキュ」



ゾロはふっと笑って、ハンカチで顔を拭き出した。



「…なんか、昔もこんなことあったよな」



「あったっけ?」



「あァ。ガキの頃、今みてェにハンカチ渡しただろ」



「……覚えてないなぁ」



記憶を思い返しても全然思い出せない。



懐かしそうなゾロの表情が、私の胸を締め付ける。



「あん時も雨だったな」



「……」



私が忘れてること。



貴方はちゃんと覚えてくれてるんだね。



初恋の行末



それだけで、すごく嬉しい。



もう少し一緒に居たかったけど、家はあっという間で。



ほら、互いの背中には互いの家。



「傘、ありがとな」



「うん。風邪ひかないようにね」



「おう。あ、これ後で返すから」



「……いいよ、ハンカチくらい…」



「いや、返しに行くよ」



髪の濡れたゾロは、悪戯に笑う。



「またな、名無し」



鮮やかに、新しい笑顔を私の脳裏に刻み付けて。



ゾロは家に入ってった。



ハンカチ、返しに来てくれるんだ。



私たち、また会えるね。



「またね…ゾロ」



淡い恋が、少しだけ色を強めてく。



見込みがないってわかってても、想うだけならいいよね?



私やっぱり、初恋を大切にしたいから。



これからもそっと、貴方を想うよ。



fin.

 
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