オモテU
□Walk along
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んしょ、んしょ、と小さな声が聞こえ目を開けると、名無しが洗濯物を取り込む姿が映った。
一味に入ったばかりで勝手がわからないのだろう、少し大変そうな様子が気の毒に思って。
「あ」
ひょい、と彼女の背丈より高いロープを外してやった。
「……」
「…あっ!?わ、あ、あの…」
「…ほら」
ロープの端を突き出すと、俯きながらおずおずと手を伸ばす。
びくつく彼女に、ゾロは小さく溜息を吐いた。
「……悪ィ、余計なコトした」
「えっ…?」
「じゃあな」
ロープを手にしたのを確認した後、ゾロは踵を返す。
何とも言えない気持ちを抱え、頭を掻きながら。
「あっ…あのっ…」
そこに少し大きな名無しの声が届き、何やら一生懸命な感じなので首だけ振り向くと。
「あっ…あり…ありが…!」
真っ赤な顔で彼女が言った。
「……ん」
だけど目が合ったのは一瞬で、また俯いてしまう名無し。
ゾロは後ろ手に片手を上げると、昼寝をやめてキッチンへ足を向けた。
(……またやっちゃった…)
ちゃんとお礼が言えなかったことに、名無しはがくっと頭を垂れる。
一味の新しい仲間、名無しには悩みがあった。
それは男が苦手というコト。
ひょんなことから知り合ったこの一味とは、世界的に有名な画家である父の形見の絵を、賊から取り返す争いで世話になり。
また、世界中の名画を見たいという自身の夢を叶えるため、誘われるままに船へ乗った。
俺達と一緒に居れば、苦手なモンなんかなくなる!
と言ったルフィを信じて、一味の仲間入りをして早1ヶ月。
ルフィ、チョッパー、ブルックはナミやロビンと変わらずに接することができるようになったものの。、他の男はまだ慣れずにいる。
しかも、ゾロとフランキーに至っては、見た目や目付きも相まって余計に苦手意識が高まっていた。
(これじゃあ何のために海賊になったのかわかんないよ…!)
こんな調子であれば、特技は絵画だけ、の自分が。
この先の海で…男が山ほどいるこの海で、夢を叶えるなんてできるわけがない。
(変わらなきゃ…)
意を決した名無しは、その日の夕食後、月見酒と称して甲板で飲んでいたゾロの元へ行った。
「あ、あの…」
呼ぶと顔だけこちらに向ける。
薄暗くとも月明かりが辺りを照らすから、ゾロの顔ははっきり見えて。
この時点で緊張してる自分を情けなく思いながら、隣へ腰を下ろした。
「……何だ?」
「ひ、昼間はありがとうございました!」
言うなり深々と頭を下げた名無しに、ゾロはきょとんとする。
呆然としながら数回瞬きをした後、
「…はははっ!」
大声を上げて笑い出して、そんなゾロに今度は名無しが目を丸くする。
「あ、あの…」
「ははっ……悪ィ…んな緊張して言うことでもねェのによ」
他人行儀で、かつ必死な様が可笑しいのだと言われ、名無しは真っ赤になった。