オモテU
□続・鈍色三角
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茜色に染め上げられた空と海。
目を細めながら赤みを帯びた太陽を見つめていると、人の気配がした。
「……名無し」
振り向けばトラ男が居て、階段に座る私の方へ降りてくる。
「暇そうだな」
「失礼ね。夕陽を見てるの」
あれ、と指差した方に視線を送った後、トラ男は小さくあァと言った。
「黄昏時の空って綺麗じゃない?」
「へェ…そういう情緒を持ってるとはな」
「……さっきから失礼だよね」
トラ男の発言に顔を顰めたところで同じ階差になり、彼は手摺に寄りかかる。
「ねぇ、ゾウまではまだかかるの?」
「さァな。そういうのはナミ屋に聞けよ」
待ってる仲間のことも気になるだろうに、けれどそんな様子はおくびにも出さない。
無表情のままのトラ男を見ていたら、視線が気になったのか隣りに座る。
細身とはいえやっぱり男の人だから、二人も並んで座ったら階段は窮屈で。
互いの肘と肘が触れ、布越しにじんわり熱が伝った。
「ゾウに着いたらこの船ともおさらばだ」
「……うん」
目的を達成したら同盟解消、とは知ってるけれど、お別れが近づいてると思うとなんとなく寂しい。
パンクハザードからドフラミンゴとの戦いまでいろんなことがあったけれど、共闘するトラ男にはいつの間にか仲間意識のようなものが生まれてる。
なんだかんだ面倒見はいいし、この船に馴染んできた気もするし…多分、みんなもそう思ってるはず。
だからそんなトラ男がいなくなる、と思うとしんみりした気分になった。
「寂しいか?」
「そうだね、寂しいよ」
正直に告げれば、ふふんと鼻を鳴らすトラ男。
寂しいと言われれば、死の外科医でも嬉しいんだろうか。
トラ男の嬉しそうな顔ってあまり見たことないなーと思って彼の方を向いたら、少し口角が上がっていた。
「お前、素直だな」
「よく言われるよ」
「かわいいやつ」
「えっ」
それで、ククッと笑う。
い、今…かわいいって言った!?
ていうか、笑ってる…!
うそ…、トラ男ってそういうこと言うんだ…!
初めて見る意外な一面に驚いていたら、嬉しそうな船長さんが膝に頬杖を着いて覗き込んできて。
吸い込まれそうな藍色の瞳に優しく見つめられ、少し恥ずかしい。
「寂しいなら一緒に来い」
「えっ?」
熱くなった頬のまま、目を丸くする。
「一緒に来いって……えっ?」
言葉のままだとしたら、ローと一緒に来いってことで。
つまり、ハートの海賊団に入れってこと…!?
「あははっ、もう、ローってば」
きっとこれは、寂しいって言ったことのお礼がこもった社交辞令。
「気持ちはありがたく受け取っておくよ」
ありがとうの意でにっこり笑って返すけど、なぜかトラ男は眉を寄せた。