ウラU
□半熟Love
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どうしてこうなったんだっけ…と、ここまでを思い返してた。
昼食の後、最近ハマった半身浴を楽しもうと本を片手に大浴場に入ってたら、ガチャリをドアが開いて。
鍵を閉め忘れたとか敵襲とか若干パニックになってたら、緑の着流しを纏った男が現れた。
普通、女子がお風呂に入ってたら慌てて出て行くと思うんだけど、ゾロは真逆。
『ついでだ、俺も入る』
そう言って戸惑う私に構うことなく、手早く裸になってご入浴。
せっかく一人で大浴場を満喫しようと思ってたのに…
「…………」
湯船に鼻まで浸かって、目の前の男をジトリと見上げる。
気持ちよさそうに目なんか閉じちゃってさ。
いつもお風呂に入らないくせに、なんでこういう時に入るかね。
「……何見てんだよ」
と、そんな視線に気付いたのか、ゾロが片目を開けた。
「…………」
「シカトかコラ」
「………別に」
必要最低限だけ交わしてまた口をお湯の中に沈ませれば、苦笑が返ってくる。
その表情を和らげるためか、片手で掬った湯で顔を濡らし数回手を上下させた後、ゾロはふーっと息を吐いた。
「…………」
まるで温泉に入ってるみたいなんて思ってると、頭を傾げて露わになった首筋に、つーっ…と滴が滑るのが目に入った。
なんか…色っぽくない…?
色気という予想外に浮かんだ単語に捕らわれ、今度はしげしげと見つめだす私。
意外と長い睫に高い鼻。
血色の良くなった薄い唇は、湯気に濡らされうっすら光る。
太い首は広い肩につながり、日に焼けた肌と筋肉がついた胸が呼吸に合わせて上下してて。
汗か蒸気か、逞しい腕に滲む水滴が赤く染まった肌を転がっていく―――
「―――…」
ドキッ、と胸が鳴った気がして、慌てて視線を逸らした。
だって、カッコイイと思うならまだしも、男の人を色っぽいだなんて、何だか変な気がしたから。
しかも相手は中性的な顔立ちでも何でもない「ゾロ」だよ。
こんなイカツイ男じゃなくて、もっと細身で繊細な人なら…って、そんな人居たっけか。
でも、鷹の目のミホークや赤髪、赤髪のとこのベックマンだったら…、大人の色気がある気がする。
あ、クロコダイルも渋さと年上特有の余裕があって、それはそれで…
ビシャッ!!
「ひゃあッ!?」
なんて考えていたら顔にお湯を掛けられて、突然のことに驚いた私は悲鳴を上げる。
何事と思って視線を落とせば、ゾロの手元が不自然な形で水面に置かれてて。
それが水鉄砲した後のポーズだと理解した途端、豪快な笑い声が響いた。
「ははははっ!」
「…………」
きょとん、と固まる私の頬から滴るお湯が、胸元を濡らす。
「ちょっ…!」
ようやく状況を飲み込んで、私はゾロに近付いて抗議した。
「もう!何てことするの!」
「はははっ…いいじゃねェか」
「よくないっ…!まず謝れ!」
なんて言ってもゾロが謝ることなんかなくて、逆にげらげら面白そうに笑ってる。
やっぱり、こんな子供染みた真似する男が色っぽいはずがない。
だってゾロだもん。
そして、そんな男に惚れてる女も、きっと同等。
「えい」
「ぶぼっ!」
仕返しにゾロの顔にビシャっとお湯を掛ければ、笑顔が一瞬で青筋を浮かべた恐ろしい表情に変わる。
「てめェ、何しやがる」
「お か え し」
べーっと舌を出せば、伸ばされた太い腕。
捕まらないように逃げてまたお湯を投げたら、がばっとゾロが立ち上がって。
「!!!」
抱え込まれると同時に、そう深くもない湯船に二人一緒に沈み込んだ。
「ッ…!!」
ザバーッと溢れるお湯の音。
足がついてるんだから溺れるはずがないのに、肩を押さえられて背中が底に着くのを感じると、ほんの少し恐怖が生まれ。
夢中で手を伸ばし、我先にと勢いよく顔を出して空気を求める。
「ぷはぁッ…、げほっ…げほっ」
「ゲホッ…、クソ、鼻に入った!」
濡れた髪を掻き分けて大きく息をしていると、顔を歪めて鼻を擦ってるゾロがいた。
自分から仕掛けて鼻にお湯入ったなんて、バカ……、バカすぎる。
「ぷっ…、何やってんの?」
可笑しさに今度は私がケラケラ笑い、ゾロは罰の悪そうな眼をしてたけれど。
それが、ふと和らぐ。
「……笑った」
「え?」
「…………」
良く聞こえなくて聞き返しても、ゾロはザバザバお湯を掻き分けて歩き、カランの前へ行ってしまう。
ああ、行っちゃった。
それを寂しく思う自分に気付き、本当は構って欲しかったんだって、奥底の願望を知った。