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□過去拍手
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「埋めようの無いゼロセンチ」




「大好き!」


彼女は誰にでも言った。
何かをしてもらった時、
何かをもらった時、
軽く何時も「大好き」と言っていた。
でも、僕には・・・?
僕には「大好き」と言ってくれない。
何故?どうして?僕のこと嫌い?



「ねぇ、」
『あっ、何、羊?』
「ううん、何でもない」
『変な羊』



彼女は僕の気持ちも知らないまま
歩いてきた廊下を歩く。
月子とは違う気持ち、
確かに月子の事は「好き」だけど
彼女への想いとはまた違う、
愛している。という意味での「好き」



『羊、早くしないと錫也が怒るよ。それでなくても遅刻してるのに』
「そうだね、錫也怒ると怖いもん」
『ほら、』
「何?」
『昔よくやったじゃん、手!つなご!』
「・・・うん。」
『良し、少し走ろうか!羊!』



そう言って大きく一歩を踏み出す
走った時の風は妙に心地よく
君と一緒だからだと思う。
僕はそっと握った力を強める。
すれば彼女の握る力も強くなる。



「ねぇ、大好きだよ。僕は、何時までも」
『うん、大好きだよ。私も、』
「それは・・・」
『・・・うーん"I love you..."?』
「・・・違うよ、"Je l'aime"っていうんだ」
『分んなかったんだもん!』
「良いよ。日本語で、」



遠くの方に三つの人影が見える。
あっ、あの感じは錫也怒ってるかな・・・?



『羊に言うときは、ちゃんとした意味で言いたかったんだ』
「うん、」



『愛してる』




その囁きは
あまりにも小さく
僕の耳にしか聞こえなかった
その時の彼女の顔はまるで熟して美味しそうな林檎の様で、
可愛かった。
そしてつないだ手も、
通じ合った気持ちも、






埋めようの無いゼロセンチ











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