短編集
□俺に溺れろ!
1ページ/13ページ
「ねぇ、聞いた?今日、あの日高武人が学校に来てるんだって! 」
「ホント?一目でもいいから会えたらいいなぁ」
昼時の食堂はうるさいほど賑やかで、話声が嫌でも耳に入ってしまう。
そのことに真城慶太は苛立ちを隠せないでいた。
「ったく、日高日高うるせぇな。そんなに珍しいかよ」
「……あのなぁ慶太。俺らにとって日高は高校のときからの友達だけどよ、あいつらからすれば今や人気雑誌の表紙を飾る有名モデルだぜ」
仕方ないだろ、と慶太の友人の彰吾は言う。
「モデルねぇ……」
日高は確かに高身長でスタイルもよく、なによりイケメンだ。
モデルのバイトを始めたと聞いたときは、こいつは有名になるだろうなと思った。
今や超売れっ子。駅やビルにポスターを見かけたこともある。
仕事が忙しいのか大学に来れる日もそんなに多くなく、単位が危ないとぼやいていた時もあった。
そんなに仕事が忙しいなら学校をやめちまえばいいのに。
もうモデル1本で食っていけるはずだ。
……だが、その一言が慶太には言えなかった。
「日高、昼飯買って来たぞ」
慶太は食堂で昼飯を済ますと彰吾と別れ、第二図書室の個別自習室へと向かった。
ここは第一図書室と比べ、本館から離れているせいか利用生徒は少ない。
有名すぎる日高にとっては絶好の休憩場なのだ。