短編集
□切ナイ想イ
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「おせーよ。達也」
昼休み、2人分の弁当を持ちながら非常階段のドアを開けると、いつも通りのセリフが聞こえた。
「悪い悪い」
「許す」
ニッと人懐っこい笑顔を向けたこの少年の名は冬夜。
俺の幼なじみだ。
「ほら、弁当」
自分の弁当を自分で作っていた俺はいつの間にか、冬夜の分まで作るようになっていた。
まぁ、1つ作るも2つ作るも変わらないので苦ではないのだが。
「サンキュー。達也の弁当、まじ旨いから楽しみなんだ」
「そうか」
俺が弁当を毎日作る理由に、冬夜のこの言葉を聞いているから、というのもあるかもしれない。
俺は小さく照れ笑いしてしまう。
「あ…お茶、持ってくんの忘れた」
俺は辺りを見回しながら呟く。
どうやら教室に忘れてしまったらしい。
「俺の飲めば? 」
冬夜が投げたペットボトルを反射的に受け取る。
「……ありがとう」
単なる友達同士なら、回し飲みなんてどうってことない。
でも……俺は違う。
本気で恋愛対象として冬夜を好きになっていた。
もちろん、冬夜は俺の気持ちを知らない。