短編集
□届かぬ願い
1ページ/1ページ
「別れよう」
ぼそりと意を決したように呟く。
「嫌だっ!! 」
そして部屋中に響き渡る大きな声。
この部屋にいるのは俺ともう1人の少年だけだから、大きな声を出しても咎める者はだれもいない。
「やだやだ。絶対にいやだ」
同じ言葉を壊れた機械のように繰り返す。
「俺、嫌だよ。朝人の傍に居るって決めたんだ」
「仕方ないだろ。分かってくれ。俺はもう陸とは一緒にいれない」
陸は離すものかと抱きしめるようにしがみつく。
それを優しく離す。
「お前には幸せになって欲しいから。俺とじゃなくて、もっといい人と」
「……俺が好きなのは朝人だけだ。これからもずっと、朝人だけだよ」
離されてもめげずに、抱きついてくる陸。
こいつに敵わないのはとうの昔から分かっていたはずだ。
そして俺も、本心では離れたくなかったのだろう。
「じゃあ、もう少し俺の傍に」
嬉しそうに頷く陸の頭を優しく撫でた。
白い部屋の白いベッドに寝ていた俺。
君は飲み物を買ってくると部屋を出て行った。
静かな部屋に規則的になる機会音。
俺の寿命は、あと3ヶ月。
END