短編小説
□Bitter Chocolate
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Bitter Chocolate
「あー!!てめぇこら赤也!!」
部活後、テニス部の部室に怒声が響いた。
ブン太は今にも後輩である切原に飛びつきそうな勢いだった。
そんなブン太をジャッカルが必死で捕まえている。
「落ち着けよ丸井…」
「だってこいつ!!」
ジャッカルに捕まりながらもブン太はジタバタと暴れる。
丸井はどうやら我を忘れているようだ。
(俺にどうしろって言うんだよ…)
そんな時部室の扉が開いた。
「何を騒いでいるんだ…?」
「あ、柳さん」
1人着替えに入ってきた柳の後ろに赤也は素早く隠れる。
「何があったんだ?」
落ち着いた口調で柳がジャッカルに尋ねる。
「あー…あのな、ココにあった丸井のケーキを赤也が食っちまって…」
「だって美味そうだったんスもん!」
「アレは、調理実習で作ったからって女子にもらったやつだったんだぜィ!俺が部活後にゆっくり食べようと思ってたのに!!」
柳は思わずため息を漏らす。
(ここは本当に中学か…?まったく困った奴らだ…)
そうは思うものの、どうやら丸井は落ち着く様子もない。
「赤也!てめぇ一発殴らせろィ!」
「だからー、すいませんでしたって〜」
柳のジャージをつかみながら赤也は言う。
「柳ぃ〜…」
ジャッカルはジャッカルでどうにかして欲しいと言う目線を送ってくる。
(はぁ…)
柳はもう一度ため息をつき、丸井の元へ歩いていった。
「丸井…」
「な、なんだよ」
(うっ…こいつの眼で見つめられると…)
耐えきれず、ブン太はふいっと顔をそらす。
すると柳は何かを思い出したように自分のロッカーへ向かい、何かごそごそと探し始めた。
「?」
「あぁ、あった…」
小さくそう言うとまた丸井の元へやって来る。
「丸井…」
再び自分の名前を呼ぶ柳に返事をしようとしたら口の中に何かが入ってきた。
口の中に入るとすぐにそれはじんわりと溶け始めた。
「チョコ……?」
「あぁ…ケーキではないがこれで我慢しろ」
そう言いながら柳がぽんっと頭を撫でる。
ジャッカルと赤也は参謀の意外な一面に驚いているようだった。
「柳そんなもの持ってたのか?」
「あぁ、頭を使うと糖分が欲しくなるからな…」
「へー…あれ?でも柳さんって…」
(確かにチョコだけどこれは…)
「柳さん、甘いの苦手じゃなかったッスか?」
柳は何も言わずふわりと微笑んだ。
そのままくるりと俺の方を振り返ると、俺の手に持っていたチョコを握らせた。
黒っぽいパッケージには“Bitter Chocolate”の文字。
「こんなものですまないな…」
(確かにビターチョコだけど…)
すでに溶けてなくなってしまったそのチョコは、ケーキよりも甘く感じた。