短編小説

□2人の位置
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二人の位置


「日吉ぃ」
「向日さん…?」

どこからか聞こえてきた声の主を探して辺りを見回す、が姿は見えない。
(確かに聞こえたんだが…)

「こっちだぜ!」

再び声が聞こえてきたのは俺の頭上からだった。
驚いて上を向くと、部室の屋根の上にその人の姿があった。

「な、にをやっているんです…?危ないですよ」

さすがの日吉もこれには驚き言葉が詰まる。

「いや、練習してたらボールが屋根にのっちまってよ。取りに登ったんだけど…」
「普通自分で登らないでしょう…」
「それがココ超気持ちいいぜ!」

無邪気に言う向日さんを見ているとため息が出た。
(まったく怪我でもしたらどうするんだこの人は…)

しかし一方の向日はそんな日吉の気持ちを知るはずもなく、無邪気に上から笑っている。

「なんかいつも見下ろされてるからなぁ、たまには上から見るのもいいな」
「…馬鹿なこと言ってないで早く降りてきたらどうです?」

日吉がそう言うと向日は頬をふくらませる。

「なんだよー、お前に俺の気持ちなんてわかんねーだろ!」
「そうですね、俺は身長に困ったことないですから…」
「くっそー!日吉のバーカ!」

向日さんはそのまま上からギャンギャンと何かを言っている。
(でも確かに見下ろされるのは新鮮だな…)
でも俺はやっぱり…

「なぁ、日吉ぃ」
「何です?」

再び見上げると向日さんはニコニコしながらこっちを見ていた。

「なぁ、もし俺がここから飛び降りたら受け止めてくれるか?」
「嫌です」
「なんだよ!そんなきっぱり言わなくてもいいだろぉ!!」

そう叫んでから向日さんはどこかへ行ってしまった。
(…?)

「ふぅ…」

後ろから声が聞こえて驚いて振り返る。

「まったく日吉もひどいよなぁ」
「あぁ、降りてきたんですか」
「おう」

そう言うと向日さんは俺の横に並んだ。
そして俺の顔を見て明るく微笑む。

「へへっ…やっぱりこの位置の方が落ち着くぜ」
「そう、ですね…」

二人は目を合わせ微笑んだ。

「よっし、練習いくか」
「はい…」

俺たちはそのまま並んで二人でコートへと向かった。

(でも向日さん、俺の中ではあなたは大きな存在ですけどね…)

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