リクエスト小説

□Sweet Drops
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Sweet Drops

「トリックオアトリート!」

部室に明るい声が響いた。

「…騒がしいぞ、丸井」

すかさず参謀の冷めた声が入る。

「何だよ、せっかくのイベントじゃんか!」
「生憎俺は純日本人でな」
「いいじゃん楽しもうよぉ」

柳と丸井がそんなやり取りをかわしている時、赤也の頭の上には疑問符が浮かんでいた。

「と…とり…?」
「トリックオアトリート。切原君、もっと英語を勉強したまえ」
「まぁ柳生、そう言いなさんなって」
「えっと…どういう意味ッスか?」
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ…だな」
「ハロウィンじゃからな」
「あぁ、ハロウィンッスか」

赤也、仁王、柳生、ジャッカルの四人がそんな話をしている間も、丸井は柳に攻め寄っていた。

「なぁ、いいだろィ?」
「…しかし俺は何も持ってはいないぞ」
「えーしょうがないなぁ…んじゃ帰りにどっか寄っていこうぜィ!」

そう言うと丸井は期待の眼差しで柳を見つめる。

「……はぁ…」

柳は一度諦めたようにため息をつくと四人の方をくるりと向いた。

「そういうわけだ、すまないが先に帰らせてもらう…行くぞ、丸井」
「おう!」

そうして二人は部室から出て行った。
残された四人は互いに顔を見合わせる。

「…まったく、柳君も丸井君には甘いですね」
「まったくぜよ…」
「ラブラブですもんねぇ、先輩達」
「…だよな」

何故かわからないが寂しい気分になる。

「まったく部室でイチャつくなって感じだよね」
「!?」

突然後ろからものすごい殺気を感じ、四人は恐る恐る振り返る。
そこにいたのはどす黒いオーラを放つ…

「ぶ、部長!!」
「ゆ、幸村君…い、いつからそこに!?」

さすがの紳士も突然のことに動揺を隠しきれないようだった。

「え?ずっといたよ?あの二人が馬鹿みたいにイチャイチャしてたときからね」
「そ、そうなんスか…!?」

((全く気づかなかった…))

「それにしてもハロウィンかぁ…俺も何かしようかな、悪戯」
「!」

幸村がそう発すると同時に部室に冷たい空気が流れた。
四人はすぐさまアイコンタクトを取る。

(ど、どうするんすか!?幸村部長機嫌最悪ッスよ!)
(…先ほどの二人を見たからでしょうね)
(幸村のイタズラなんて洒落にならんぜよ…)
(へたすりゃ死…)
(と、とりあえず我々に残された選択肢は…)

「「じゃあ俺(私)たちはこれで失礼します」」

四人は声を合わせてそう言うと、そそくさと部室から逃げるように出て行った。
部室に残された幸村はストンと椅子に腰掛ける。

「そんなに逃げなくてもいいのにね…」
(俺がイタズラしたいのはアイツだけなんだけどな…)

しかしアイツがハロウィンのイベントに参加するなんて考えられない。
むしろその存在自体を知っているのか、という疑問がある。

「知らなそうだなぁ」

ガチャッと音がして、扉が開いた。
すべてのコートの見回りを終えた真田が帰ってきたのだ。

「やぁお疲れ、真田」
「何だ、まだ残っていたのか?」

それだけ言うと真田は自分のロッカーの前に向かい、ロッカーを開けてすぐさま着替え始めた。
幸村はそれをジッと見ている。

「ねぇ、真田…」
「どうした?」
「今日、何の日か知ってる?」
「今日…?10月31日…明日から11月だな」

案の定、真田はハロウィンというものを知らないようだ。

「そう、だね…。えっとじゃあ飴か何か持ってない?」
(あーあ…俺も女々しいよなぁ)

それに真田が学校に菓子を持ってくるとは思えない。
わかっているのにそんなことを聞いてしまう自分に変に関心してしまう。

「飴…?あぁ持っているぞ」
「え!?」

返ってきた言葉があまりにも意外で、思わず驚きの声が出る。

「な、何で?珍しいね」
「いや、今朝なぜか蓮二に渡されたんだ…。今日はおそらく必要になるから持っておけ、とな。まったく意味はわからんかったが」

(蓮二の奴…)
どうやら参謀はすべてお見通しだったようだ。
蓮二…明日会ったらどうしてくれよう…
そんなことを考えていると、真田の手がふいに伸びてきた。

「な、何?」
「ほら、いるのだろう?喉でも痛いのか?」

差し出されたのは懐かしい缶入りのドロップス。

「クッ…今時こんなの売ってるんだね…っ」
「あぁ、俺も懐かしいと思ったぞ」

蓮二は一体何を考えているのか。
しかし真田には確かに似合っているかも…

「…ありがとう、真田。真田も一個いる?」

ドロップスの缶を開けるとフワリと甘い匂いが漂った。
中には色とりどりのドロップ。
カランと音をたてて、一つ取り出して口に含む。

「俺は…」

真田はそこで言葉を切ると、考え直したように僅かに微笑んだ。

「俺も一つもらおうか…」

幸村は缶からもう一つドロップを取り出し、真田の口の中に入れた。
すると真田は急に眉をしかめる。

「おい、幸村…これは…」

真田が喋るたびにほのかにミントの香りがした。

「これは、ハッカだな…」
「ふふっ…」

幸村はドロップスの缶を自分のカバンに入れてにっこりと笑った。
そして真田の方を向いて一言呟く。

「トリックオアトリート」

それはちょっとした恋の悪戯…
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