リクエスト小説

□甘い罠
1ページ/2ページ


甘い罠



男というのは実に単純な生き物だ。

―――――2月13日。

学校の机や靴箱をいつもより綺麗にしたりしてみる。
そして無性に女の子に優しくしてみたりする。
そう、来たる翌日に備えて…

「って、わざわざそんなことしねぇよな?」
「そうッスよね。めんどくさい」

そんな一般男子に聞かせられないような会話をしているのはテニス部部室。
彼らは今日も普通に部活に励んだ後だった。
なんと言っても立海大のテニス部と言えば人気が高い。
少しでもお近づきになりたい女子は山ほど居るのだ。

「実際お返しとか面倒くさいし?」

これは彼らの…つまりモテる男の理屈。

「でもやっぱりもらえると嬉しくないか?」
「そりゃ、ジャッカルは……なぁ?」
「何だよ!俺はもらえないって言うのか!?」

ただいま彼らは帰宅に向けて着替えの真っ最中。
何だかんだ言って彼らも男の子な訳で…やはり心の中では少々浮かれている。

「去年は仁王先輩とかすごかったッスよね」
「柳生も負けてなかったな…すごい数だった」
「ジャッカルは3つだったよな」
「なんで知ってんだよ!」

そんな彼らを横目に幸村がクスクスと笑っている。

「可愛いねぇ、あいつらは」
「バレンタインなんて必要ないだろう」

そう冷めた声で言うのは真田副部長。
そんな彼の言葉を聞き、幸村は真田をじっと見つめて言った。

「へー…じゃあ真田は俺にくれないんだ?」
「なッ…!」
「残念だな…期待してたのに」

明らかに演技の幸村を見てうろたえる真田。

「い、いや…その…お前が、欲しいというなら…」
「くれるの!?」
「…う、うむ…」

その言葉を聞くと幸村はたちまち笑顔になる。
周りに居た者は全員呆れたようにその光景を見ていた。
(真田副部長、また流されてる…)

「しかし、チョコの数なら幸村だってすごいじゃろぅ」
「そうですね。一番多いのではないですか?」
「そうだな…100前後、と言ったところか」
「そんなことまで記録してるんッスか!」

(やっぱ先輩達はモテるんだなぁ)
確かに俺の目から見ても先輩達は格好いいと思う。
だからモテるのは当たり前なんだろうけど…
でも…俺としては結構複雑だったりする。
(どうせあの人はそんな事、深く考えてないんだろうけどな…)

「丸井先輩は……いくつくらいもらったんッスか…?」

やっぱり気になる。
ドキドキしながら答えを待つと、丸井先輩はニヤリと笑って言った。

「そんなに気になるのか?」
「べ…別にそういうわけじゃ!」

まるで心中を読み取られたような気がして俺は動転した。
(そんなの気になるに決まってるじゃないッスか!!)
そう言いたいのに素直になれない自分がむかつく。

「教えてくれないなら別に…」
「おいおい、拗ねんなよ」
「別に拗ねて無いッスよ!」

だって…チョコの数だけライバルが居るってことじゃないか。
俺がこんな事考えてるなんて、この人は思いも寄らないんだろうな。

「なぁ、赤也」
「何ッスか?」

丸井先輩は悪戯でもするかのように無邪気な笑みを浮かべている。
(やっぱ可愛い…)
そう思ったとたんに急に恥ずかしくなってきた。

「今年はいくつもらえるか勝負しねぇか?」
「あ、良いッスね!しましょう!」
「まぁ、俺が勝つけどな」
「何言ってるんッスか、負けないッスよ」

まぁこういう事が出来るのも後輩の特権なんだろうけどな。
(今はそれで我慢するか…)

「やっぱ勝負には罰ゲームだよな」
「ですね!何にします?」

丸井先輩は俺の顔を見てニッコリと微笑んだ。

「負けた奴が勝った奴にキス…これで決定な」
「!」

負けた奴が勝った奴にキス!?
それって…俺が勝ったら丸井先輩にキスしてもらえるってことか!?
何が何でも絶対勝たないと…だってもし負けたら……
……負けたら?

「あれ……ちょっと待って下さいよ。それって…」
「変更は無しだからな!」

いつの間にか丸井先輩は帰る準備が終わっていた。

「じゃ、明日。楽しみだなー!行くぞ、ジャッカル」
「あ…おい、待てよ丸井!」

そうしてバタンと扉が閉まり、丸井先輩の姿は見えなくなった。
頭の中で先輩の言葉がぐるぐると回る。

「丸井も考えたな」
「賭けになっていませんね」
「まったく、素直じゃないのぅ…」

俺が勝ったら丸井先輩からキス…
俺が負けたら…丸井先輩にキス…
それって結局………

「ずるいッスよ……丸井先輩…」



そして2月14日―――
   俺は甘い罠にかかった
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ