リクエスト小説

□不調和な恋
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不調和な恋



「俺と友達やめてほしいねんけど」

いきなり聞かされた言葉に俺は唖然とした。
朝練前、部室には今俺と白石しかいない。
そんな中突然言われた言葉。
その意味がジワジワと脳に伝わっていき、俺の頭の中は今にもパンクしそうだった。

「そんでな、謙也…」
「ッ…ふざけんなや!いきなりなんやねん!友達やめろ?上等やんけ、ほんならやめたるわ!」

頭に血が上って、自分が何を言っているのかわからなくなっていた。

「お前なんか…絶交や!!」

それだけ言うと俺は部室を飛び出した。

(いきなりアイツは何を言い出すんや!俺がアイツに何かしたか?)

いくら考えても心当たりはない。
理由も分からないのにいきなり友達やめろなんて言われても…そんなの納得いくわけがない。

(もうあんな奴知らん)

わけの分からないまま俺はコートへと向かった。





「…………」

一方部室に取り残された白石は激しく後悔していた。

(なんやえらい事になってもうた…)

絶交…そんなつもりで言ったわけではなかったのに。

(あのアホ…話は最後まで聞けっちゅうねん)

「なんやなんや、白石朝から暗い顔しとんなァ?」

そんな時部室にやって来たのは一氏だった。

「白石、お前今日こそは…ってゆうてへんかったか?」
「それが、な…ユウジ…」

白石は一氏に事の詳細を話した。
一氏はだんだん呆れたような顔になりながら白石の話を聞いていた。

「お前…アホちゃうか?」

一氏は最後まで話を聞き終わるとため息混じりにそう言った。

「アホって…やっぱまずかったか…」
「当たり前やろ!謙也の性格考えてみィ…いきなりそんなこと言われたら勘違いするに決まっとるやないか!」
「そう……やな。やっぱり…」

一氏は、今自分の目の前にいるのがバイブルと呼ばれる男であることが信じられない気持ちだった。
(白石ってこないにアホやったっけ…?)
しかし…面倒なことになった。

「とりあえず…謙也の誤解を解かんと…」
「せやな」
「しかし……アイツは根に持つ所があるからなァ」
「あー……確かに」

一氏は、あからさまに落ち込んだ様子の白石の肩を優しく叩く。

「まァとにかく、後はお前次第や」
「ユウジ……せやな。俺ちょっと行ってくるわ」

そう言って部室を飛び出した部長の背中を眺めながら一氏は小さくため息をついた。





「さっきからどうしたんッスか…」

妙に殺気だった先輩の姿を見ながら財前は迷惑そうに言う。
この天才には珍しく、今日は早めに朝練に来ていたらしい。
そんな財前の側で謙也はラケットを振り回していた。

「マジで…迷惑なんッスけど」
「迷惑ってなんやねん!もっと先輩をいたわれや」
「いつもはアホみたいにへらっとしとるくせに…まァ、落ち着きがないのはいつものことッスけどね」
「お前は……」

飄々とした態度でそう言い放つ後輩のいつも通りの態度がなぜか安心する。
それに比べてアイツは……

「はァ………」
「先輩……きもいッスわ」

そう言って財前はため息をつく。

(どアホ…ため息つきたいのは俺や…)

「謙也ァ!!」

突如テニスコートに大きな声が響いた。
くるりと振り向くと真剣な顔をした白石が走ってきた。

「謙也…話があるんや」

白石は息を切らしながら俺を見つめている。

「……絶交やってゆーたやろ」
「いや、ホンマすまん!アレはそう言う意味やないねん!」

あまりにも白石が真剣な顔をしているものだから、俺は絶交の事を諦めて白石の話を聞くことにした。

「さっきのは間違いや」
「……じゃあ友達やめるってのは取り消すんやな?」
「あー…いや、アレは取り消さへんで」
「はァ?」

白石が何を言いたいのかさっぱり分からない。
結局さっき言っていたことと同じじゃないか。

「お前なんやねん!結局絶交なんか!?」
「違うって…」
「でも取り消さへんのやろ!意味わからんわ!」
「ええから話聞けや!!」

いつもは冷静な白石が珍しく大声で怒鳴る。
俺はそれに驚いて変に冷静になった。

「ええか?俺はお前と友達ではおれへんねん。そん代わり…俺と恋人になってくれや」
「………は?」

俺には白石の言葉がすぐに理解できなかった。

「は?やないわ。俺はお前が好きやねん。せやからこれからは友達やなくて恋人になってくれ」

そう言うと白石はそっと俺にキスをした。
俺は呆然としたまま………
その言葉に身をゆだねるように静かに頷いた





「で…結局なんやったんッスか?」

そんな二人を少し離れた場所から一氏と財前が見ていた。

「あれは…ただの痴話喧嘩や」
「恋人も何も、先輩等いつも一緒やないッスか」

二人はお互いに顔を見合わせてため息をつく。

「ま、しゃーないッスわ」

朝日に眩しそうに目を細めながら、生意気な後輩は呆れたように呟いた
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