リクエスト小説

□食と恋と
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食と恋と


とある水曜日の3・4時間目。
家庭科室からほのかに漂う香り。

今日は3年B組の調理実習。
メニューはご飯にみそ汁に肉じゃがという和食の定番。
生徒達は楽しそうに調理の準備をしている。

「ん…?アイツは?」

エプロンとバンダナをつけ準備万端の丸井は、同じ班である1人の少年が居ないことに気が付いた。

「雅なら…屋上だと思うけど?」
「またか!アイツは…」

(せっかくの調理実習だというのにまたサボりか。後で真田に言いつけてやる)

少年こと仁王雅治は面倒な授業になるとよくサボる。
ちなみに屋上が好きらしく、サボりの時は大抵そこにいた。

(そのくせアイツ案外頭良いんだよな…)

そんなところが余計に人の神経を逆なでする。

「ったく……後で来ても食わせてやらねぇからな」

ぶつぶつと呟きながら丸井は自分の班の調理台へと向かう。
同じ班には丸井と仁王の他に3人の女子がいた。
女子達は楽しそうに話しながらジャガイモやらニンジンやらの皮を剥いている。

「じゃあ俺は米でもとぐか」
「あ、うん。よろしく」

丸井は慣れた手つきで手際よく作業を進める。

(本当は…仁王と一緒に作るのちょっとだけ楽しみだったんだけどな…)

クラスも部活も同じなのに仁王のことは分からないことが多い。
だから仁王がどんな風に料理するのかちょっと見てみたかったんだけど。

「ブンちゃん!みそ汁と肉じゃがどっち作りたい?」
「んぁ?えっと…どっちでもいいけど?」
「丸井君って料理上手なんだよね」
「まぁな。家でもよくやってるし」

結局俺は肉じゃがを作ることになった。
女子の手つきを見ていると、どう見ても普段から料理をしている様には見えない。
ならば比較的簡単な方を作らせた方がいいだろう、と思ったからだ。

(まぁみそ汁も肉じゃがもたいしたこと無いけどな)

内心そう思いながら丸井は1人で調理を進めていった。
作る一方で後かたづけもする。

(うわ…俺ってマジで主夫みたいだな…)

自分でそう思って少し悲しくなった。

「うわッ…ブンちゃんマジで料理上手いんだ」
「マジでってなんだよ!信じてなかったのか?」
「いや、でも料理できる男ってかっこいいよ」

そうやって褒められると悪い気はしない。

「天才的だろぃ?」
「ははっ、確かに」

そんな風に女子と話しながら大体の調理は終了した。
後は米が炊きあがるのを待つだけ。

「お……美味そうな匂いがするナリ…」

そんな時ふらりと奴がやって来た。

「てめぇ仁王!今頃何しに来たんだよ」
「まぁまぁ…そう怒りなさんなって…」

悪びれた様子もなく仁王は飄々としている。

「雅、もう全部終わっちゃったよ?」
「そうか…すまんかったのぅ…」
「ウチの班は早く終わったよね!丸井君のおかげで」
「ほう……丸井が作ったんか」

女子に囲まれながらそんな話をしている仁王を、丸井はジッと見ていた。

(相変わらずモテるなぁ…)

あんな詐欺師のどこがいいんだか…。

「さて…米も炊けたし、食おうぜぃ」

テーブルに料理を並べていく。
ちゃんと五人分。

(食わせないわけにはいかないからな)

「美味しそう」
「んじゃ…いっただきまーす」

作った料理はとても美味かった。
みそ汁は若干薄い気がしたけど、まぁそこは、な。
みんなでワイワイ言いながらあっという間に食事はすんだ。
女子は他の班の子の所に行ってしまい、テーブルには仁王と2人きり。

「美味かったか?」

食器を片付けながら仁王に尋ねる。
仁王は答える代わりに自分の分の食器をもってきた。

(なんだよ、感想くらい言えっての)

そんなことを考えながら仁王の食器を受け取ろうとすると、突然腕をつかまれた。

「なッ…!」

危うく食器を落とすところだった。
不機嫌な顔で仁王を睨むと、丸井とは裏腹に穏やかに笑う仁王の顔があった。

「のぅ、丸井…」
「何だよ?」

再び食器を流しに運びながら、仁王を見もしないで応答する。
仁王はクスッと笑い、俺の耳元で小さく囁くとそのまま教室を出て行った。

「あれ?ブンちゃん、水出しっぱなしでどうしたの?」
「というか…若干顔赤くない?」

戻ってきた女子が丸井に話し掛ける。
が、丸井はそんな言葉はすでに聞こえていなかった。

『俺の嫁にならんか……?』

詐欺師は俺の耳元で小さくそう囁いた。

(あの馬鹿…ッ)

そんな詐欺師の囁きに、不覚にも俺はときめいてしまった
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