リクエスト小説
□何があっても何処までも…
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何があっても何処までも…
それはさり気ない一言だった。
部活前、俺は先輩達と一緒に部室で着替えていた。
「ちょっと仁王君!私のロッカーに私物を入れていくのはやめたまえ!」
見ると柳生先輩のロッカーには、どう考えても仁王先輩の物であろうカツラや変なオモチャがたくさん入っていた。
柳生先輩は几帳面だからそんなゴチャゴチャした自分のロッカーは許せないようだ。
しかし当の仁王先輩はどこ吹く風。
柳生先輩の言葉を聞いているのかも分からないような様子である。
「聞いているのですか、仁王君」
「プピーナ…」
「柳生も大変だなぁ。尊敬するぜぃ」
丸井先輩はからかうように柳生先輩の肩を叩く。
「そんなことを言っているが、丸井がジャッカルのロッカーに菓子のゴミを入れている確立89%」
「げっ…なんで知ってるんだよ」
「また入れたのかよ!」
(先輩達は仲良いなぁ…)
俺はそんな先輩達のやり取りをぼんやりと見つめていた。
同じく側でそれを見ていた部長が小さく呟いた。
「でも…俺たちもそろそろロッカーの中を片付けないとね」
「ふむ……そうだな」
(あ……)
「片付けか…めんどくせぇ…」
「丸井!己が使ったロッカーくらいきちんと片付けるのが基本だろうが!」
「わかってるっての…」
先輩達にとってそれは何気ないやり取りだった。
(でも………)
その時俺は、何とも言えない焦燥感を感じていた。
「赤也」
部活の途中、柳先輩が俺を呼んだ。
「何スか?」
「今日はどこか浮かない顔だな。どうした?」
俺はラリー練習をしている先輩達を見ながらベンチに座っていた。
柳先輩は俺の座っているベンチの後ろに立ち、俺の顔をのぞき込む。
「いや……別に…」
「体調が悪いわけでもなさそうだが…何か思うことがあるなら言ってみろ」
(柳先輩はよく見てるなぁ…)
柳の妙な観察力に感心しながら、俺はポツリポツリと話し始めた。
「俺…先輩達を倒すのが目標なんスよ」
「あぁ…そうだな」
「入学した時からずっと…あんた等3人を倒すことしか考えてなかったんッス」
「それで…?」
柳は元気のない赤也の話を真剣に聞いていた。
「今日、部室のロッカーを片付けるって話を聞いてて……もうすぐ先輩達引退しちゃうんだと…思って…」
「まぁ、受験も控えているしな…」
「なんか…全国終わっても普通に練習来てたから引退とか考えて無くって…」
話をしている間も、赤也はどこか遠くを見るような目で練習を見ていた。
(なるほどな…)
そんな赤也を愛おしいと感じながら柳は微笑む。
「でも、もうすぐ居なくなっちまうんだな…と思ったらなんか、急に変な気分になって…」
(少々甘やかしすぎたか…)
この2年間、赤也はずっと先輩である自分たちと行動してきた。
同学年の中でもずば抜けていたから、自然とそうなったのだが…
何だかんだ言ってもやはり後輩とは可愛いものだ。
丸井やジャッカルはもちろん、幸村や真田も赤也のことを可愛がってきた。
(寂しいのか…)
今日の会話を聞き、その存在が無くなることを意識したのだろう。
当然3年生はもう少ししたら部活にも顔を出せなくなる。
そうしたら赤也は1人に……。
柳は赤也の頭を撫でながら穏やかに笑う。
「お前が高等部に上がれば、また一緒だ」
「わかってるッスよ…でも、先輩達の居ない1年は…やっぱ長いッス」
赤也は少し俯きながらボソッと呟くようにそう言った。
「まだあんた等にも勝ってないのに…」
「……ならばいつでも挑戦しに来るといい」
「え?」
赤也は丸い目を見開いて柳の顔を見る。
「別に同じ敷地内に居るんだ。いつでも挑みに来い。全力で相手してやるさ」
柳の言葉に赤也はハッとしたような顔をして、その後ニッコリと笑った。
「今のホントッスか?」
「ああ。お前が俺に勝つ日を楽しみに待っている」
「その前に他の奴に負けないで下さいね!」
「まぁ…お前にも負けないがな」
(そうか…別に居なくなるわけじゃないんだな)
赤也はピョンッとベンチから降り、そして柳の方を振り返る。
「俺、絶対強くなって、先輩達に勝ちますから!勝つまでどこまででも追いかけるッス!!」
そう言って赤也はコートへ走って行き、練習に戻った。
(単純な奴だ…全く…)
先ほどまでの憂鬱な顔が嘘のように、今の赤也は生き生きとしていた。
「フッ……楽しみにしているさ」
そんな後輩の姿を、参謀は静かに見守っていた