修学旅行ナイショの恋

□嫉妬心/市ノ瀬渚
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みんな知らない。

本当の僕なんか。知ろうともしない。

上辺だけの市ノ瀬渚が好きなんだ。



「よーい、アクション」



監督の声でスイッチが入る。


僕はもう、僕ではなくて、市ノ瀬渚になる。



紅葉を一片、拾って太陽に透かす。

体中で秋を感じているのに、心は此処にはいない。
目の前の女の子を抱きしめて、甘い台詞を呟く。


うっとりと僕を見つめるのは、僕の逢いたい人じゃない。


ねぇ、こんなにも逢いたいなんて、どうかしてるかな?


今、誰といるの?

そんな事を考えるただけで軽く気が触れそうだ。


「カーット」




監督の声で気が付く。

どうしてこうも、君の事ばかり・・・



はっと息を呑む。



マネージャーと彼女が何か話しこんでいる。

僕が此処に居るのに。
どうして僕を見てくれないんだろう?


僕はどうして、こんなに君を求めてるんだろう。
意味なんてない。溢れてくる気持ちが真実なのだから。




「何してるの?」

『渚くん』

「別に・・・」




よそよそしい。

視線を泳がすマネージャーと頬が赤い彼女と。
彼女を信じていても、心は酷く枯れてしまう。




「ちょっと、こっち来て」




有無を言わさず彼女を人目につかない所に追いやる。



「ずいぶん楽しそうだね?」

『そんなこと・・・』




こんな子供じみた嫉妬なんかして、馬鹿馬鹿しい。
だけど、これが等身大の僕。




「何を話してたの?」

『・・・あのね、その』




恥ずかしそうに俯く彼女の顎を掴んで上げる。




「僕から目を離さないで。僕だけを見てて」



そう唇を重ねながら呟く。
僕の言葉に反応して口を開いた瞬間、舌を滑り込ませる。


深く、強く、抱きしめる。君の瞳に僕しか映らないように。




段々と深くなるキスに彼女は力を抜いて僕に身を委ねた。


それが、嬉しくも、切なくなって唇を離した。




「何を話してたの?」

『・・・渚くんが・・・』

「ん・・・」

『私じゃない女の子を抱きしめているのを見て、胸が苦しくなって・・・』

開かれた大きな瞳が伏せ目がちになる。




『・・・嫉妬して・・・それをマネージャーさんが気付いて』

「・・・あれ演技だよ」

『・・・でも』




まだ言いたそうな彼女に人差し指を彼女の唇に寄せて僕が言う。





「本当はずっと君を想ってた。なんで抱きしめる相手が君じゃないんだろうって」




彼女が瞬きをした瞬間、瞳から涙が一滴、落ちた。




彼女の瞼に口付けて涙を吸い取る。



「僕もマネージャーと一緒にいる君をみて、すごく嫉妬した」




同じ気持ちだったんだ。




そう思ったら、肩の力がふっと抜けて、間抜けな自分に笑いがこみ上げてきた。




「ふふっははっ」

『渚くん?』

「僕ら何してるんだろうね?お互いに嫉妬して」




キョトンとしてる彼女にもう一度キスをする。



今度は嫉妬じゃなく情愛を込めて。

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