夢小説
□雨の帰り道で
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雨は嫌い。
6月の紫陽花の花びらに落ちる雫。
灰色の空。
大好きなおじいちゃんが亡くなったのも6月だった。
泣きながら雨に濡れた記憶…。
それが忘れられないから私は雨が嫌いなのかも知れない…。
「浮かない顔ですね。」
後ろから急に呑気な声がかかる。
六道骸。うちのクラスで人気の男子だ。
人当たりが良くて、陽気で、いつも女の子に囲まれている。
「帰りましょうか」
「うん…。」
私と骸は、帰る方向が同じなので、いつからか一緒に帰るようになった。
でも、私の気持ちなんて、骸は知らないんだろう。
もし知ったとしても、「嬉しいですよ♪」と笑うだけで、他の女の子と同じようにあしらうのだろう。
「あ!傘忘れた!!」
いつも入っているはずの折りたたみ傘がカバンに入っていなかった。
「問題ありませんよ」
骸はやっぱり呑気な声で、紫色の大きな傘をバッと開く。
「この傘に一緒に入っていけばいいじゃないですか。」
「なっ…!?」
思わず赤面して絶句する。
だって…それじゃあ、それじゃあ…相合い傘じゃない!!
「何か問題でも?」
いつもの笑みを崩さない骸に、私はムッとしながらも、「別に。」と、答え、傘に入る。
心臓がドキドキする。赤面しているのを悟られないようにうつむく。
骸は平気なんだ…。女の子と相合い傘になっても。顔色ひとつ変えないんだ。私と相合い傘になって、接近していても…。
「やっぱり、元気ないですね」
驚いて顔をあげると、骸はめずらしく眉を下げて微笑んでいる。
「べ…別に。」
まさか、「私はドキドキしてるのに、骸は大丈夫なのね」とか、「こんなに好きなのに気づかないのね」…とは言えない。
「む…骸って、私なんかと相合い傘していいの?」
唐突に変な言葉が口をついてた出た。
「はい?」
「私なんかと相合い傘してたら、いつも周りにいる女の子たちが怒るよ?」
なんでこんなことを言っているんだろう…
「骸って…彼女とか、いないの?」
そこまで言って、泣きそうになって真っ赤になった。
「いますよ。」
心の中が真っ暗になる。
「いたんだ…じゃあっ…!」
「あなたですよ。」
「え?」
「あなたが…僕の彼女というか…彼女になって欲しい人です。」
いつになく真面目な顔。
「え…」
混乱して涙が出てきた。
「好きですよ…。」
赤くなって涙している私の頬に、骸は優しく手を添えた。
「冷えていますね…。」
骸の手から体温が伝わってくる。細長い指が私の涙をぬぐった。
「あり…がと…っ私もっ…」
涙ながら途切れ途切れに声を振り絞る
「私も…?」
骸は私の顎に手をかけ…
「私もすっ…きっ…」
そのまま引き寄せて口付けられる。
傘が落ちて、髪が濡れる。
雨の粒が心地よい。
私はきっともう、雨の日に悲しくなることはないだろう…
雨の日が、好きになれた気がした…。
次の日の朝、家に迎えに来た骸に、折りたたみ傘を返された。
私と相合い傘をしたくて、いつの間にかカバンから抜き取ってたらしい。
私は笑いながら怒って骸を追いかけた。
空には虹の橋がかかっていた。
END