歌話

□バイマイサイド
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何を言っているんだコイツは、という顔をしていた。
戸惑いを隠せないでいる瞳を、オレは真っ直ぐに見つめていた。



「答えなくてもいいぜ」

ギリと歯を食いしばるサスケを見て、告げる。
睨みつけながらも、瞳孔は揺らめいて、それでも、視線は懸命にオレを捉えようとしていた。
なぜだ、と言っているのがわかる。
お前の心は一体何を求めている、と。

この表情を見るのは久しぶりだ。

(何で俺にそこまで、か)

この言葉も、あの日に言われた以来。


それでも、あの頃とは決定的に違うのだなと思った。


あの時はただ、お前を離してはならないとがむしゃらになること以外に、どうしたらいいのかが解らなかった。
今はもう、自分の心に気が付いてしまった。
何をすべきかより、何をしたいのかが。


(こんなに近くにいるのに)

今すぐ言ってしまえたらいいのに、と思う。
そうしたら楽になるだろうか。
答えを得ることができるだろうか。

身体が震えている。
取り返しがつかなくなる前に、ここから逃げろと叫んでいる。

だから告げられない。
自分の気持ちだけじゃ駄目なんだ。
それは、お前とすべてを分かち合ってからだ。



こちらを見ていた瞳の揺れが、ピタリと止まったのが見えた。
光の届いていないその目が今本当に見ているのは、きっとオレじゃない。

(お前が何を求めているかなんて、とっくに解ってるのにな)

その先にあるのは、深い闇か、思い出の影か。
そうだったとしても構わない。
ただ、お前の見ている先に、共に寄り添うことさえできれば。


(オレにはずっと)

和解の約束が、あの日握った手の温もりが残っている。
だからここまで走ることができたんだ。

まだここに感じている、と強く掌を握りしめた。



フ、とサスケが目を伏せて口元を歪ませる。
俺の顔を見て、笑みを浮かべながら言った。

「お前を一番に殺してやる」

それを見て、オレも笑った。


目の前の景色が変わっていく。
きっと最初から、こうなるために生きていたのだとさえ思った。


「サスケ」
視線を離さないまま、名を呼んだ。
自分の左の胸を、ぐっと掴んで握りしめる。

「お前の場所は、いつも変わらない所にあるからよ」

お前にだって、きっとわかるはずだ。
お前の奥にあるものが、望みが、その頬を濡らしてお前を壊しても。世界を壊しても。

(この手を解くことなんて)


「オレの側に居てくれ」


この身が消えて無くなっても、この世界でなくなっても、きっとオレ達はひとつになれる。
ずっと、お前の側に。




fin.

(Hemenway)

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