七班
□恋散れども尚、桜は実る
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恋は、いつだって惚れた方が負けで。
それでもって、諦めない者が勝ちなのだ、と思う。
「今日、私の部屋で一緒に過ごさない?」
「………へ?」
任務終わりの、帰路につく途中。偶然を装い帰り道を合わせて、いつも通りのたわいのない会話の最中、サクラは突然話を切り出した。
まるで、話の中でそれとなくふと思い付いたように。あくまで自然に、ナルトの顔を「どう?」と覗き込む。
それなのに、どうして笑顔はこんなにも不自然になってしまうのだろう。
何も緊張することはない、平静を装って、いつも通りにすればいいのだ。
…否、普段と同じはずがない。ナルトに見えぬよう、ひっそりと握った拳の中にじわりと広がる汗の量は、明らかに普通ではないのだから。
それでも、決して悟られてはいけない。…それでは、意味がない。
「え、え……っと」
素っ頓狂な声を上げたまま表情が静止していたナルトは、ようやく問われた言葉の意味を頭で理解し始めたらしい。
口をぽかんと開けて固まっている顔は、まさに予想外といった様子だった。
いつもと違う道を選び、わざわざ帰路を共にしてくれた時から、もしかしたらプレゼントが貰えるかもしれない、くらいの期待はきっと抱いていたのだろう。
だが、まさか突然こんな提案を受けるとは、頭の片隅にも思っていなかったはずだ。
今日という自分にとって特別な日を、二人きりで過ごす意味。さすがに、わからないという事はないだろう。
少し俯き、百面相をしながら、口からは呻きともつかないような声を漏らしている。かなり困惑しているようだ。サクラの中に渦巻く心情を汲むような余裕は、今の彼にはまるで無いらしかった。
「そっその…!い、…いいのかってば…?」
「良いも何も、誘ってるのはこっちなんだから。アンタが来るって言えばそれで決定よ」
「…じゃ、じゃあっ…!お邪魔します、ってばよ」
サクラの顔をまともに見ないまま、ナルトは答えた。表情は見えなくても、喜んで照れてくれているのは解る。
握りしめた拳の力が強くなる。そんな反応をされると、期待してしまう。
勘弁してよ、と胸の奥で叫びながら、笑顔だけはどうにか崩さないまま、真っ直ぐとナルトの顔を見る。
「じゃあ、六時までに準備しておくから。遅刻厳禁だからねっ」
そう笑ってみせて、最後は半ば根性で、方向が別れてナルトの背中が見えなくなるまで、サクラは渾身の演技を続けてみせた。
表情筋が震えているのがわかる。体から一気に力が抜けた。