▼other..
□純粋な恋。【前】
1ページ/5ページ
――奴良組本家にて。
「あ、リクオ様、おはようございます。」
「おはよう…首無。」
リクオ様と呼ばれた少年は、眠たい目を擦りながら挨拶を返す。
首無は、挨拶を終えると、玄関に向かい掃除を始めた。
「ふぅ、昨日より綺麗にしないとな。」
掃除をしながら呟くと、
「やっほー首無!朝からごくろーっ!」
と、大きな声が聞こえてきた。
そこには、ゆらの従姉妹で毎朝リクオと一緒に登校している優佳がいた。
「優佳さん!おはようございます。」
首無は、笑顔で挨拶をした。
「うんっ、おはよー!」
優佳も笑顔で挨拶を済ますと、本家に入っていった。
「はぁ……。」
首無は、優佳ともっと話したかったのか、ため息をついていた。
*********************************
――放課後。
「あ、奴良君、優佳を借りてくで。」
ゆらがリクオに声をかけると、優佳をつれて教室を出て行く。
「うぇえ〜、またお説教かいな〜?」
「アンタのためやねんで!」
優佳の嫌そうな声に、ゆらが一喝した。
「あ、うん……。どうしたのかな?」
リクオはきょとん、としながら首を傾げた。
一方ゆらたちは、
「ほな帰るで。」
「うん。……で、何なん?」
「何なん?ちゃうわ!!」
優佳の問いに、ゆらが怒鳴った。
「わざわざ毎朝迎えに行く必要ないやろ!
あそこは妖怪の溜まり場やねんで!?」
「そんな、不良の溜まり場やねんで〜みたいに言わないでよ。
大丈夫、うちも陰陽師やし。それに、リクオ君面白いし…。」
優佳は、ゆらと一緒に転校しており、初めて声をかけられたリクオと、仲良くなっていた。
その後何やかんやで、リクオが妖怪だと分かったものの、友情は壊れてなどいなかった。
優佳は、苦笑を浮かべながら言い返すも、
「何言うとんねん!いつか喰われるかもしれへんで!それにな、
竜二が知ったら、本家に連れ戻しコースやねんで!?」
ゆらの最後のセリフに、ぐっと言葉につまる優佳。
「たいがいにしぃや。私は別に反対せぇへんけどな…、アンタのこと心配してん。」
「うん…、そやな…。せっかくゆらと転校したのに京都に戻るなんて嫌やしな……。」
優佳は諦めたかのように、頷いた。
「分かればえーねん。私の兄貴の性格知っとるやろ?許婚やしな。」
「うっ…、それは言わんといて……!親が、勝手に決めただけやし…!」
ゆらの言葉に、優佳は焦りながら言った。
「まぁ、あんま奴良君に関わらんよーにな。
ほな、今日特売日やから、はよ行くで。」
「うん…できる限り……。てかまた!?
本家は金ボンボンやのに、何でうちらは貧乏やろなぁ…。」
はぁ、とため息をつく優佳。
「何ブツブツ言うとんねん!遅刻するで!」
「学校やないんやから…。」
走りながら言うゆらに、苦笑を浮かべながら追いつく優佳。
********************************
――奴良組本家にて。
「ただいまー。」
「お帰りなさいリクオ様。…あれ、優佳さんは?」
優佳がいないのを気づいた首無は、リクオに尋ねた。
「藍田さんなら、花開院さんに連れてかれたよ。」
「そうですか……。あ、もうすぐでご飯が出来上がりますよ。」
首無は残念そうに呟くと、リクオから離れるように去っていった。
「…首無……。藍田さんのことが好きなのかなぁ…。」
首無の寂しそうな背中を見ながら、呟くリクオ。
「あら、リクオ様。こんなとこで突っ立ってどうしたのよ?」
声をかけたのは、毛倡妓だった。
「毛倡妓!?ううん、何でもないよ!
(ボクに…出来ることはあるのだろうか――?)」
リクオは、心中で呟いた。