トリップ
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暗い世界。
誰もいない。
私しかいない。
これは夢。
悪い夢。
目が覚めればいつもと変わらない世界が広がるの。
ねぇ、そうでしょ?
「ん……」
暗い暗い世界から意識が浮上した。まるで光に包まれたように温かく安心した。
「あ、起きた」
重い瞼を開ければ視界いっぱいに広がる金色。覚醒しきっていない頭でぼんやりと眺めていると金色から手が伸びてきた。
そこで気づく。
これは人だ、と。見えていた金色はこの人の髪なんだ。
「熱はねぇな。おいクソカエル!ボスに知らせてこい」
額から手が離れたと思うと金髪の人は誰かに指示をしていた。指示された人は渋っていたが仕方なく、といった感じで部屋を出ていった。
「リンゴ食う?」
サイドテーブルの上にあったリンゴを器用に剥きながら金髪の人は訪ねてきた。
私は状況がよくわからず、ただリンゴが剥かれるのを眺めていた。
「ん」
口元にリンゴを押し付けられる。
食欲はない。
だから首を横に振って断った。
「何だよ、王子がせっかく剥いてやったのに」
つまらないといった感じに私に向けていたリンゴを口にした。
いや、あれは拗ねたと言った方がいいかな?
「何だよ」
じっと見つめていると金髪の人が視線に気づいた。
「別に……」
短く返事を返せば、
「ふーん」
彼は興味をなくしたようにリンゴを剥いたナイフを回しては遊んでいた。
ぐぅ……
静寂な部屋に何とも間抜けな音が鳴った。
「ん、リンゴ」
金髪の人は再びリンゴを私の口元に持ってきた。
今度はちゃんと口にした。
「美味い?」
コクリと頷けば彼は満足したように白い歯を見せてにっと笑った。
金髪の人=リンゴ±見知らぬ+優しい
きっとまだ私は夢の中。嫌な夢の後のいい夢なんだ。