美柳町行きバス停
□ETCと僕
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大学生2回目の夏。
僕はサークルの旅行日を1週間、間違えた。先日、変にテンションが上がって、車出し係を引き受けてしまったんだ。
レンタカー、借り直さなきゃ。予約は一応できたけど、今回のキャンセルはできないらしい。
……どうしようか。
たまには1人でドライブでもいいかもしれない。どこに行こう?
ローカルパンフレットを見ていた僕は、決めた。
『美柳町』に行こう。
思い立ったが吉日、と言うものだし、早速借りた車を出す。そして、カーナビの通り高速道路に乗った。高速ってことはお金がかかるな……。
ETC、は付いてるけどETCカードなんて持ってないぞ?
「ピー、カードガ挿入サレテイマセン」
そう思っている最中に言われたから、少しイラッときた。
「うるさいなー、何か文句あるのかよ?」
いつもと同じ、独り言のつもりだった。
「大有リデス」
「……え?」
それが、長くて短い7日間の、始まりでした。
「ETCが喋った……!?」
いや、まさかまさか。そうだ、幻聴だ。いや、夢かもしれない。
最近疲れてるのかな……。
「ETCデハ、アリマセン。私はMOOV(ムーヴ)0315」
「むーぶぜろさんいちご?」
いよいよ頭がおかしくなってきた。
「ソウデス。近未来系無機物ノヨウナモノ」
いや……説明されても、まず近未来系無機物が理解できないから。
「近未来系無機物……20××年――現在ノ技術ナラ合成モ可能デス」
いや、だからその単語が分からないんです。要約すると……なんだ?
「喋ル無機物デス」
最初からそう言って欲しかった。
「貴方ノ名前ハ?」
「僕は紅野 憂」
「憂サン、デスネ?」
「そうだよ、えーっと……MOOV……なんだっけ?」
「MOOV0315デス」
いちいち難しい名前だな……。いいや、面倒臭いし。じゃあ315だから、ミイコでいいよな。
「私ハMOOV(ムーヴ)0315デ、ミイコデハアリマセン」
「いいじゃん、ミイコで。可愛いよ」
「ヨクアリマセン……」
ミイコは機械のくせに泣きそうな声を出したが、僕は知らん顔をした。
「そういや、美柳町って遠いの?」
数十分後、僕らは意外と意気投合していた。
ETCのクセに面白い話や対応をするんだ、こいつ。
「私ノ計測ニヨレバ、後40分クライデ到着予定デス」
うーん、遠いか近いのか微妙な距離だなあ。
「ソウイエバ、憂サン、最近ノ新聞読ンデマスカ?」
「うーん、たしなむ程度には……」
テレビ欄と一面くらいは見てるんだけど。
で、その前フリはなんなのかな?
「最近、爬虫類ガ横暴ヲシテイルヨウデスカラ」
「いい迷惑だけどな……」
「私ノ立場カラ言ウノナラバ 、幼稚ナ戯事デスネ」
「ま、僕らには関係ないけどさ」
「ソウデスネ」
「……平和だな」
「……ソウデスネ」
これから巻き込まれる大騒動もつゆ知らず。
2人はドライブを続けるのでありました。