美柳町行きバス停
□ETCと僕
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「……う、心結(みゅう)」
コロナに言われてハッと気付いた。
「なんか臭くなーい?」
「えー、分かんないよー」
「でもさー、あたし的には臭うなー」
「そうかなー……」
あたしは異常に鼻が悪い。
視力は2.3なんだけどな。
「そうだってばー。ヒロちゃん先生も思うでしょ?」
あたし達の後ろをずっと無言で付いてきていた、顧問の真種先生(普段は尋ちゃん先生)にたずねる。
「……かなり臭いかも」
「やっぱり!?うちもそれ思ってたんだけど」
「ウチも嫌な臭いするわ」
続いて、詩織やななこまで名乗りを挙げる。
もしかして分かんないのあたしだけ?と思っていたけど、その心配はいらなかった。
あたしくらいでもはっきり分かるくらい強烈な臭いになってきたからだ。
多少混乱し、一旦落ち着こう、ということでスーパーの前で溜まっていたあたし達に、車から降りてきた男性が近づいてくる。
「この臭い……映画の撮影か何かですか?」
皆を見渡したが、誰も答える気配がないので、あたしが代表する。
「違うと思います。私達はバレーの練習試合の帰りですからよく分かりません」
というか私達が聞きたい。
「そうですか……」
不安そうな表情の男性に、尋ちゃん先生が言う。
「ケータイ……ありますけど……ニュースやってる、かも……」
おおっ。
周囲から、そんなどよめきがあってもいいかもしれない。
「あ、じゃあ見せてもらってもいいでしょうか?」
「はい、でも、あの……」
コロナが言いにくそうに、皆が思っていた疑問をぶちまけた。
「どちら様ですか?」
一瞬、空気が凍った(ような気がした)。
「……ああ、忘れてました、どうもすいません」
ヘラヘラとした微笑みで謝る。
よくよく見れば、小柄だ。ななこと同じくらいだから、170pくらいだろうか。
「僕は紅野憂。大学生で、観光に来ました。」
憂さんは、わざわざ学生証まで見せてくれた。
でも、美柳町に観光?
こんな平凡な町に何を見にきたんだろうか。
噂によればカゲツミとかいう異世界人(宇宙人や幽霊だって説もある)がいるらしいけど、あたしは見たことないし……。
「……あの、こちらにも質問があるのですが」
何だ、こいつ。
急に怪しく見えてきてしまった。
「そちらのお名前も、聞きたいんですけど」
あ、一本取られた。
そう思って硬直していると、代わりにななこが説明してくれた。大阪の下町育ちでちょっと口は悪いけど、こういう時にはいい子だ。
「申し遅れました。ウチは月並ななこ。端から下条詩織、麻田コロナ、吉野川心結。そんであの綺麗な姉ちゃんが真種尋ちゃんや」
あたし以外の2人は、名前を呼ばれると、憂さんの方を見て会釈する。
尋ちゃん先生は目を合わせ、多分最大級の笑顔で憂さんを見た。
正直、同性から見ても魅力的な笑顔だったよ。