Short storys

□貴女は夜の騎士(ナイト)
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 此処は夜の街。
 日付が変わり、一時間が過ぎた今も、街はネオンの明かりで賑わっていた。

 営業時間 〜1時

 大概の店の看板にはこう書いてあるけど、勿論内情は違う。
 風俗の取り締まりがきつくなり、業界への風当たりが強くなっている最中。
 うちの店にも、お達しが来た。
 もちろん役所の連中も、うちの業界が怖い。
 当たり前だよね。
 ヤーさんとか、麻薬が絡んでる店だって多いから。
 だから、奴らも妥協点を探った。
 小さな脳を捻って、ひねって。
 それでやっとこさ出た妥協案がコレ。
 表向きの営業時間は、深夜1時まで。
 裏向きの営業時間は『客がいなくなる』まで。
 故にホストの夜は長い。
 それはうちの店だって同じことだった。

『CLUB Cange』

 No.1ホストは、あたし。
 源氏名は、深箏(ミコト)。
 No.1ホステスは、あたしの元・彼氏。
 源氏名は、蓮姫(ハスヒメ)。
 Cange(チェンジ)。
 それは、簡潔に言うならば『性転換ホスト(ホステス)がお相手』であり、嫌な風に言うならオカマバーだった。

 「みーくん、3番テーブルご指名よー」
 「了解ッス、和花さん」
 「和花さんは14番テーブルで指名入ってますよ」
 「涼南ちゃん休憩入りまーす」
 「ドンペリ追加お願いー」

 忙しく人の声だけが往復して行く。
 とりあえずあたしは、指名のあった3番テーブルに向かう。
 すると、後輩のあやきち(本名は文香・アヤカ)があたしに手を振ってくる。
 俺ら合同らしいッスよ、と軽く言うと、いきなり声を潜めて言う。

 「ホラ、あのホモ疑惑のある松本サンですよ。連日通いって、金だけは持ってんですねぇ」
 「まじかー……あたし男の人の接待苦手なんだけどなぁー」
 「センパイ、素ですよ」
 「うわ、ヤベぇ……また店長に怒られるっての」

 うちの店長、じゃなくてオーナーの燈子ちゃんは、やり手だ。
 まあ、あたしは燈子ちゃんのそういうところに惹かれてこの店で働いてるんだけどさ。

 「ごめんね、松本さん。お待たせしちゃったよね。今日は俺とあやきちをご指名でいいのかな?」
 「ああ、間違っとらんよ」
 「じゃあ、とりあえず何か飲まねーか?今日は良いワインとか入ってるぜ?」
 「もう頼んどるよ」
 「さすが松本さん。情報早ぇーな」

 伊達に色々やっとらんよ、と笑う松本さんに、あたしと文香は苦笑……いや、愛想笑い。
 確かにこのオッサン、相当えげつないこともやってそうな雰囲気あるからなあ。

 「深箏、頼まれたワイン持ってきたけど?……あら、松本様。ご無沙汰しております。どうぞごゆっくり」
 「ああ、蓮姫ちゃんか。いつもありがとな」
 「いいえー、こちらこそ」

 そう言って差ってゆくのは、あたしの元カレでうちのNo.1ホステス、蓮姫。
 本名は姫宮蓮。
 童顔じゃないけど、目もくりくりで、盛るとかなりえげつない。
 裏表が激しい、っていうかそれが人気らしい。
 あたしとは上手くいかなくて、別れちゃったけど。
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