無人探査機

□御伽計画
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 最初のうちは反対意見も多数見られたのだが(我が母国・日本もその一国だ)、武力という名の脅迫によって鎮圧されていき、あっという間に世界の上層部は実行へと傾いた。
 勿論、各国にも体裁という名のプライドがあるので、これは国家機密扱いとなっていたことは言うまでもない。
 そこでこの計画がスタートしたのである。

 若い女性――桃瀬曖良が言う。

 「福吉双鳴くん?大きくなったわね」
 「曖良さんこそ、お綺麗になられてますよ」
 「あら、お世辞が上手ね」

 おとぎ話体験装置と称して人を物語の中、というより本の中へ引き込み、その世界に夢中になったところで、本ごと燃やす。出た灰は宇宙(そこら)へ棄てればよい。骨は残らないし、人は痛みも感じない。人口も減って一石二鳥だ。
 名案じゃないか、そう考えた。
 ちなみに本を燃やして普通に宇宙に棄てる、という案は無かったようだ。世界のトップとかいう奴らも実際は大した事ない。

「今日はごめんね。研究所の実験に付き合ってもらって」

 彼女は元警察機動隊隊員、現研究所所長秘書という、特殊な経歴を持つ。

 「平気ですよ、全然。あ、でも燃やしちゃ駄目ですよ。まだ生きたいです」

 「冗談でも燃やさないから安心してちょうだい。さ、こっちよ」

 僕、福吉双鳴は、父がこの計画を進めている研究所の所長、ということで記念すべき初の被験体に選ばれたのだ。
 記念すべき――と言っていいのかどうかは正直分からないが、もし成功すれば歴史に残る偉業となることは明確だった。
 そんな初の被験体である僕が選んだ世界は、
 『かぐや姫』。
 その独特の世界観と、謎に包まれた高貴な女性が好きだった。
 別に失敗を憂いでいるわけではないけど、閉じ込められてもまだいいかな、と思う。
 人類の将来を変えるかもしれない計画の成否よりも、この時僕の心は、とるにも足らないほどの好奇心が勝っていた。

 実験の日は、青い、空だった。
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