Short storys

□貴女は夜の騎士(ナイト)
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 「なぁ、深箏ちゃん」
 「俺、一応ココロは男なんだけどなぁ」

 こんなところで女呼びするなってーの。

 「いや、深箏ちゃんは深箏ちゃんだよ。ねえ、文香ちゃん?」
 「てめェ……何が言いたいんだ!?」

 文香はちょっとキレやすいからまた困る。
 まあ、それが文香の良いところでもあるのかもしれないんだけど。

 「いや、私はね?別に君たちが男装してなくてもいいんだよ。可愛い君たちが見たいんだ」
 「……お言葉だけど。それはできないよ」
 「俺らはコレで飯食ってんだっつーの」
 「じゃあお金は払うさ」
 「でも此処では規則でできないんだ」
 「じゃあ休みの日にでも……ね?旨い酒でも飲みながらさ」

 しつこい奴。
 あたしは呆れて、声も出ない。
 文香はマジギレ寸前だし。


 「ごめんね……?俺、プライベートで酒、飲まない主義なんだ」

 自分で言うのも何だけど、魅力的だったんじゃないだろうか?
 松本さんは何かモゴモゴ言って、精算にすっ飛んでいってしまった。

 「さすがみーさん!カッコいいっス!」
 「……ここには男を捨てた女の子や、女を捨てた男の子も沢山いるのに。あの言い方はないわ」
 「あたしも……いや、俺もその1人かもしれないね」

 いつの間にかやって来た蓮が寂しそうに笑う。
 どうやら松本さんは、今夜最後の客だったようだ。

 「俺もです……」
 「あたしも」
 「……僕も」

 次々と名乗りを挙げるホストとホステス達。
 燈子ちゃんは、そういう子達を集めてるんだろうか。
 あたしの疑問を見透かすように、彼女は言った。

 「貴女もね、深箏」

 今宵も星が巡り合ったならば……。
 『CLUB Cange』でお会い致しましょう。

 今夜のお相手はあたし、藤原ミコトでした。
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