Short storys
□囚われの女神
2ページ/4ページ
「雨に濡れますよ。
乱菊さん」
「七緒じゃない。
なによ? こんなところで」
明るく振舞う乱菊さん。
「いえ。
乱菊さんが目に入ったもので。
早く拭かないと風邪を引きますよ?」
「いいのよ。そういう気分なの、今日は」
「そういう気分・・・ですか」
「そう。わかった?
ほら、あんたも早く行かないと。
仕事中なんでしょ?
あんたに悪いわよ、あたし」
「いいんです。わたしは」
でもわたしは知っている。
乱菊さんが市丸隊長を忘れられない事。
しょっちゅう仕事をサボっては、
この木の下で空をみつめていること。
あなたの頬に、涙が伝っていること。
「これもギンのおかげよねー」
「何がですか?」
「毎年たくさん干し柿が食べれるじゃない」
「わたしは……」
わたしは嫌いです。
あなたと市丸隊長の思い出の味だから。