兎の詩
□蝉時雨
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遠くで蝉の鳴く馨。
その馨を耳にする度に、嗚呼、またこの季節がやってきてしまったのかと思わずにはいられないのです。
去年の夏。
貴方は、河に遊びにゆくのだ、と言って帰って来ませんでしたね。
私は待ちました。
ずっとずっと、独りで待ち続けました。
ねぇ。何時になったら、貴方はお帰りになられるの。
私は何時迄、待っていなくては不可ないの。
貴方が居なくなってから二度目の夏がやってきます。
貴方は今年こそはお帰りになられるのでせうか。
―――私はまた、この悪夢のやうな鋭い蝉時雨色の闇に抱かれて、深い絶望を知らなくてはならないといふのに…。