黒豹奮闘記

□第拾四幕
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『ふーん、そうなんだ』


「はい…っ」



結局、一つどころかもう三本は団子を食べている隣の女。

まぁ土方アンチキショウ宛てに請求書書いて食べる予定だからいいのだが。

勧めたの自分だし。


しばらく彼女と話して分かった事は、彼女の名前は「御 すみれ(オキ スミレ)」と言うらしい事と、この甘味屋に住み込みで働いているらしい事だった。

容姿は中の中と言ったところで、年齢は自分と同じくらい、背は152、3cmといったところだろうか。

大人しくおしとやかなイメージだ。



「×、×××さんは…真選組の方なんですよね?」


『あぁ』


「ここに居て、お仕事大丈夫なんですか…?」


『大丈夫、大丈夫。どうせ巡回っつっても俺以外にも隊士いるし』


「ふふっ…おサボりさんなんですね」


『まぁな』



×××がそう答えると彼女は隣で可笑しそうにクスクスと笑った。

全くと言っていい程に自分とは違うタイプの女だ。

女らしくて可愛いらしい。



「あの…×××さん…」


『ん?』


「こん――…」



彼女が何か言いかけた時だった。



《×××***!!!》


「きゃっ!」

『げっ…』



×××の無線から土方の物凄い怒鳴り声が炸裂した。



《てんめーはまたサボりやがったな!!一体何回サボりゃあ気が済むんだお前は!!》


『煩いですよ、土方さん。てか土方さんの声がデカすぎて耳がつんぼになりました。もう一度どうぞー』


《おちょくんのも大概にしろやァァ!!いいからさっさと見回りに行け!!コラ!!》



ブツン…



『言い逃げかよ』


「…大丈夫ですか?」



心配そうに眉を下げて聞いてくるすみれに対し、×××は立ち上がるとウゥーンと伸びをした。



『さすがに帰らなきゃ怒られるんで今日は帰るわ』


「はい…」


『美味かったって女将に伝えといてくれよ。あと、請求はこの明細にしといて。じゃあな、すみれ』


「!(名前呼んでくれた…!)あの…!!」



立ち去りかけた×××をすみれは思わず呼び止めて駆け寄ろうとした。だが、



「きゃあ…っ!?」


『!?、おいっ!!』



慌てたのがマズかったのか、すみれは思い切りバランスを崩しそのまま前へ倒れ込む。


バタンッ




<ここからはすみれ目線でお楽しみ下さい>




音ともに体に走るであろ衝撃に身を強張らせるが、一向に衝撃や痛みが来ない。

私は恐る恐る目を開けた。



『イテテ……大丈夫だったか?』


「!!!×××さ、ん…」



目を開けると目の前には×××さんの小綺麗な顔があり、どうやら私は×××さんが下敷きになってくれたおかげで助かったのだという事に気付く。

×××さんの優しさと、あまりにも近い顔に私の顔は真っ赤になった。



「す、すすすみません!!」


『いや、大丈夫だけどさ…降りてくれる?』


「あっ…はいっ!」



私が×××さんの上から慌てて退くと×××さんは立ち上がり、私に手を差し出した。

男の子とは思えない細くて綺麗な手。



「?」



差し出された意味がよく分からず、取り敢えず握ってみた。



にぎっ



『………』


「………」


『握手じゃねーよ!!馬鹿かテメーは!!』


「す、すみませんっ」


『天然かよ…』



怒鳴られた上に溜息まで吐かれた。

どうやら間違えたらしい。

やっと差し出された意味が分かり、赤くなりながらその手を取って、立ち上がろうとしたら足首に鈍痛が走った。



「痛ッ!!」


『…足捻ったのか?』


「ごめんなさい…」



私が謝ると×××さんは『ああーっ!!もうっ!!』と前髪をくしゃくしゃっと力任せに触り、私の前にしゃがみ込んだ。


やっぱり鈍臭い私は迷惑なんだとしゅんとしてしまう。



『あのなァ、お前はさっきから謝ってばっかじゃねーか!!そんなに謝んなくていいからっ。普通にしてろ、普通に!!』


「っ…はい…」



なんだか自分の全てを否定されたようで涙が溢れそうになり、俯いてしまう。

謝る事も許されないならどうしたらいいの…


すると舌打ちする音と共に、頭にポンと手が置かれた。



「!」


『…迷惑とかそんなん思ってねェし、面倒臭いとかも思ってねェから。だから…泣くなよ、笑ってろ』


「っ…はいっ!」



こんな事を私に言ってくれたのはこの人が初めてで…私はとびきりの笑顔を向けた。



『よしっ』



そう言って×××さんもぎこちなく微笑むと、×××さんは私の膝裏と脇下に手を入れ、あろうことかお姫様抱っこした。



「ちょっ…重たいですから…!」


『…歩けねぇんだろ?しゃあねぇよ』



×××さんはずんずん歩き、店ののれんを潜ると『女将ー!』と大声で呼ぶ。


女将が来るまでほんの数分だったが、その間私は×××さんの細いうなじとかサラサラの髪に目がいって仕方がなかった。

…これはマズい。



「あらあら、すみれちゃん。どうなさったの?」


『なんか転んだ時に足首捻ったみたいでよ。手当てしてやってくれ』


「ほんまにぃ。×××さん有難うねぇ」


『いや。じゃあな、女将。団子美味かったよ』


「こちらこそ、おおきに。またいらしてね」


『あぁ』



それだけ言って去って行く×××さんに「有難うございました!」って叫ぶと×××さんは後ろ手に片手を上げてくれた。


男の子なのに小柄で華奢な背中をいつまでも魅入っていると、後ろに座る女将がクスクスと笑っているのが分かった。

途端に恥ずかしくなり、私は頬は赤く染まる。



「すみれちゃんたら×××さんにお熱みたいやね」


「お熱だ、なんて…っ」


「ふふっ、確かに×××さんは憧れてしまう様な方ですからねぇ」



そう言うと女将は救急セットを取りに棚へと歩いて行った。



「素敵な方…」



次はいつ会えるだろうか。

彼は真選組の隊士だと言っていたっけ。


会いに行きたい。


 
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