黒豹奮闘記

□第壱幕
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「おい!大丈夫か!?」



ちらちらと雪の舞う季節――…冬。


その大きな男は叫ぶと倒れていた自分を抱えてどこかに走って行く。



『………』



朦朧とする意識の中で彼女は自分に構うその男が不思議でたまらなかった。





‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐





『………』



暖かく体を包む布団の感触に、ゆっくりと重たい瞼を押し上げる。すると、自分を覗き込む、ぼんやりとした二つの顔があった。



『………』


「よかった。気が付いたみたい」


「いやー心配したぞ…大丈夫か?」



一人は綺麗な女の人、もう一人はゴリラみたいな男の人だ。



『…な…んで、わた…俺を助けたの…?』



目覚めてすぐに、警戒心を露わにしつつ、戸惑い気味に口を開いた少女。

そんな少女に二人は一度顔を見合わせた後、にっこりと笑った。



「そりゃあ、こんな幼い子がこんな寒い日に道端に倒れてちゃ、放ってはおけんからな」


『!』



天人に両親を殺され、気が付いたら目の前は血の海だった。

それからただひたすら走って走って…もう限界がきて倒れた。怯え、隠れながら逃げる日々に、出会う人達や行き交う人達は皆、私を見て見ぬふりだった。


人は皆冷たい。

そう思っていたのに…この人達だけは違ったというのだろうか。



どうして?

なんで…?どうして…?



疑問ばかりが浮かび上がり、大きな目を真ん丸に見開いて二人を見つめる少女に、その男はニカッと笑った。

…あぁ、なんて温かい笑みをするんだろうか。



「そうだ、貴女の名前はなんて言うの?帰る所がないなら一緒に暮らしましょう?」


『え…?』


「おお!そりゃあいいな、ミツバさん。それなら安心だ。ここなら総悟もいることだしな」



見ず知らずの自分を助けてくれた上に暮らそうとまで言い出してくれたこの人達。


――この時自分は、野垂れ死ぬしかなかった自分を拾い、人の温かさを思い出させてくれたこの人達に、どこまでもついて行きたいと思った。











『あれから大分経ったな…元気かな―…あの髭ゴリラ』



江戸の町を歩きながらそう呟く女。彼女は笠を深く被り、周りを見渡す。



『てか真選組屯所ってどこだよ…』



目的地を目指して歩いていた女だったが、ふと足を止めると薄暗い裏路地に入った。

誰かの言い争う様な声が聞こえる。



「オラ、てめぇ!ガキだからって手加減すると思うなよ!!」


「何言ってるネ!!私からしたらお前らの方がガキアル!!」


『(随分威勢のいい奴だな…)』



そんな事を思いつつ騒ぎのする方を見れば、一人のチャイナ少女を攘夷浪士と思われる軍団が囲っていた。

チャイナの少女は暴れ回ってはいるが、流石にこの狭い路地な上に大人数の浪士共に押さえられて、身動きが取れなくなっているようだった。



「フン!死ね、この糞餓鬼!!!」



そう言ってその男共の一人が刀を振り上げ、斬り付けようとした時――、×××は静かに声をかけた。



『おい』



その場にいた全員が振り向く。



「なんだテメェ…ん?なんだテメェ、女か?」


『…その娘を離せ』


「あ゙ぁ?テメェも斬り殺されたいのか?女の分際でイキがってんじゃねェ!!!」


「まずはテメェから斬ってやらァ」



そう言うとその男は×××に向かって刀を抜き、振りかぶる。



「ウラァァァァ!!!」


『…俺の前で刀抜くたァいい根性してんじゃねーか』



×××がニヤリと笑った瞬間、



バキンッ!!



「「「!!?」」」



斬り掛かってきた男の刀が真っ二つに折れ、同時にその男も地面へとくたばる。

周りが唖然とする中、×××は真っ直ぐにチャイナ少女の元へと歩いて行く。



「っ…一斉にかかれェェェ!!!」


「「「ッラァァァァア!!!!」」」



一人の男の合図で浪士達はチャイナ少女を脇へ放り投げると、×××を取り囲む様に斬り掛かった。



『チッ…うるせェってんだろがァァァ!!!』



×××の雄叫びと同時に浪士達は一瞬にしてバッタンバッタンと倒れて行く。

女一人を相手に浪士何人もだというのに、浪士連中は全く歯がたっていない。

――その女の攻撃は瞬速かつ、急所への攻撃が的確だった。だが太刀筋自体は荒々しく、まるで獣を思わせる。





「ホアチャアアア!!!」



一瞬、そんな女に見とれつつ、途中からチャイナの少女も加わり、十数人いた浪士達はすぐに片付いた。

女は峰打ちに使った刀を鞘に納め、去ろうとした――すると、チャイナの少女のが呼び止めてきた。



「待つネ!お前…名前、何ていうアルか?」


『……〇〇〇×××。あんたは?』


「私は神楽いうネ!お前すげー強いアルな!友達になってやってもいいアルヨ!」


『友達…?はは、じゃあ宜しく頼むぜ』



女…×××は、ほんの一瞬、神楽の言葉に少し驚いたように目を見開いたが、くすっと苦笑すると、そのまま裏路地を後にした。


 
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