黒豹奮闘記
□第拾参幕
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<この顔にピン!!ときたら110番>
と書かれた立て札を見つめ、目深に笠を被りキセルを吹かして立っている男がいた。
「どうやら失敗したよーだな」
「!」
背後からその男…高杉に声をかけてきたのは坊主に扮した桂だった。
高杉はにやりと口元をあげる。
「思わぬ邪魔が入ってな……牙なんぞとうに失くしたとおもっていたが、とんだ誤算だったぜ」
「何かを護るためなら人は誰でも牙をむこうというもの。×××もそうであろう。護るものも何もないお前はただの獣だ…高杉」
「獣でけっこう。俺は護るものなんぞないし、必要もない」
高杉は桂に背を向け歩き出す。
「全て壊すだけさ。獣の呻きが止むまでな」
「………」
そう…俺は壊すだけだ。
この腐った世界を。
護るものなどないのだ。
高杉の頭にふと×××の声が響く。
……師匠、俺の居場所は大切なもんのある真選組だ。誰に何を言われようとな。けど…その大切なもんの中には…
師匠、あんたもいんだよ…
「フン…」
奴も随分と変わったものだ…
出会った頃はガキの癖に修羅を思わす目をした、まさに"獣"だった。
それが成長するのを隣で見てきたが、
ただ暴れ回り、刀を振り回していたあいつが変わったのはいつだったか…
そしていつの間にか奴に背中を預けている自分がいた。
鬼兵隊幹部"黒豹"
あの姿は今でも忘れる事はない。
強く、しなやかで荒々しい独特の剣さばき…まさに美しい獣だった。
共に戦場を駆け抜け、過ごした。
そして奴は自分を師と呼んだ…
自分は奴を弟子などと思った事はなかったが。
ただ…
「フン。黒豹よ…次は殺す…」
ただ、お前に師と呼ばれるのは嫌ではなかったさ。