黒豹奮闘記
□第拾四幕
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チュン チュン…
『ふわぁ〜ぁ…』
あの波瀾万丈な夏祭りから数日後、化け物並の回復力を持つ×××は、傷口も塞がり通常職務に復帰していた。
そして今はというと、眠い目を擦りながら巡回という名のサボリ中だ。
時刻は午前10時。
調度×××的には小腹の空くこの時間…
『だりィ…朝から巡回とかだる過ぎんだろうがよ〜あ゙ー死ね土方コノヤロー』
ぶつぶつと文句を言いながら×××がやって来たのは行きつけの甘味屋だった。
「あれまァ、×××さんやないの。今日もいらして下さったんやね」
『うん。ちょっと休憩に』
「ふふっ。いつもみたいにおサボリしに来はったんでしょう?」
『まぁそうとも言うな』
×××が店の表の長椅子に座るといつものように甘味屋の女将が出て来てクスクス笑った。
ここの甘味屋にはほぼ毎日来ているだろう。しかも毎回毎回仕事のサボりに。
初めは女将にあぁだこうだとサボリじゃねぇと言い訳していたが、もう最近では理由を考えるのも面倒臭くなり、このザマだ。
それを女将はいつもクスクス笑って見ている。
「そうやぁ、×××さん。今日も団子はいつものでいいんやんね?」
『?あぁ』
いつもなら何も言わずに×××のお気に入りの団子を持って来る女将が、わざわざそんな事を聞くので×××は小首を傾げて女将を見る。
「別に深い意味はあらへんのやけど、今日から新入りさんが入ったさかい、初仕事として×××さんに団子を持って行ってもらおうと思ってね」
『ふーん。まぁいつもの頼むわ』
「ふふっ、わかりましたよ」
そう言うと女将は優雅にのれんを潜り奥へと入って行った。
×××は両手を後ろに付き体重を後ろに掛けるようにして、ただなんとなくぼぉーとしながら空を眺めた。
考える事といえば、やっぱ夏は暑いなーとか土方さんマジで死ねよとか、隊服改良されねェかなーとか総悟の"例の嫌がらせ"の事とか…
まぁつまりはどうでもいい事ばっかりだ。
…一つだけどうでもよくない事があるが…その事については、考え出すと顔から火が出るので考えない事にする。
「あ、あの…」
どうでもいい思考に考えを巡らせていると後ろから声を掛けられた。
おそらく、さっき女将が言っていた例の新入りさんだろう。
『ん?』
×××が振り向くと何故かその女中は×××の顔を凝視して固まった。
『?』
「………」
『おい』
「!は、はいっ!?」
その女中は固まったかと思うと、顔を赤くし声を上擦らせて自分に返事をしてきた。
…いや、返事じゃなくて俺の団子は?みたいな。
『あー…団子、貰ってもいいか?』
初仕事からの緊張だろうか。
新入りだと聞いていたので取り敢えず気を遣って尋ねると、その女中は大慌てで持っていた団子とお茶を×××の隣へ置いた。
「す、すみません…!」
『いいよ、別に』
それだけ言ってから団子に手を伸ばし、パクっと一つ頬張る。
美味い。
ここの団子はやっぱり美味いな、と思う×××だった。まぁ、じゃなかったら毎日毎日暇つぶ…じゃなかった。休憩に立ち寄ったりしないのだが。
っていうか…何でまだこの子は俺の横に突っ立ってんの?
しかも顔ガン見されてんですけど…何か俺の顔に付いてんのか…?
『あー…何?何か俺の顔に付いてる?』
「!あ、その…っ、お顔には何も…!えっと…」
『………』
自分の顔に何も付いてないのなら何故この子は自分の顔をガン見してるんだろうか。
今は今で何かモゾモゾ、キョドキョドしてるし…
訳が分からない×××は一つ溜息を吐くと自分の隣をポンポンと叩き、団子を一つ差し出して言った。
『……一つ食う?』
「!!…はいっ!」
一つとかケチケチしてるとか思った奴、首洗って待ってろよ。