黒豹奮闘記

□第拾七幕
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ピリリ!ピリリ!



『………』



携帯のアラームの音で×××はむくりと起き上がった。

別に寝れなかった訳ではないのだが、気持ちいい夢見ではなかった。

昨日のすみれの事や、沖田の意味深発言などがぐるぐると頭を回る…



『…うぜぇ…』



眉間にシワを寄せ、ボソッと呟くと、×××は伸びをして(背が伸びる様に思いを込めて)起き上がった。

そして久々に紺色の着流しを手に取る。


自分の性格上、悩み事など長く抱えきれるタチではない。

何より気掛かりでしょうがないのは、やはり沖田の意味深な発言だ。


何故はっきり言わないのか。

いくら犬猿の仲とはいえ、言いたい事の一つや二つ言えない仲ではない筈だ。


×××は気合いを入れて髪を高く結うと、身支度をして自室を後にした。



目指すはあいつの居るであろう朝の稽古場。






‐‐‐‐‐‐‐‐‐






『おはようごぜーます』



ガラガラと稽古場の戸を開けて入ると、中で列に並んで稽古していた隊士達は目を見開いて×××を見つめた。



「え…副隊長!?」


「なんで副隊長が!?」


「おいおい…マジかよ…?」



口々に囁く隊士達と、その奥には隊士達同様、×××を見つめて驚いた顔をしている近藤と土方がいた。

それもその筈、サボり魔な×××が朝の稽古に参加することなど、滅多にないからだ。



「よう×××!お前が朝の稽古にくるなんざ珍しいなァ!」


『どおも。まあたまにはね』


「うむ。そりゃあいい事だ!大仕事の前には念には念をだからなァ!」



ガハハハ!と愉快に笑う近藤の隣に土方が歩いてきた。



「珍しいじゃねーか。てめーが朝の稽古に顔出すたァ」


『…考え事すんのが得意じゃねーんで、ストレス発散でもしようかと思いましてね』



自分がここへ来たおおよその理由に気付いているであろう土方から、フイと顔を背けながら×××がぶっきらぼうに言った。



「え?悩み事があるのか×××?なら俺が相談に乗ってやるぞ!さあ!何でも言ってみろ!ほら!」


『……近藤さん、臭いんで寄らないで下さい』


「……え?」


『クサイクサイクサイクサイクサイクサイクサイクサイクサイクサ…』


「もうやめてぇぇぇ!!それ以上俺のハートをえぐらないでぇぇぇ!!」



涙を流して叫ぶ近藤を無視して×××がスッと土方に視線を向けると、土方は溜息をついて×××を見た。



「…まァ普段来ねェお前が何しに来たかは大方予想がつく。…総悟なら奥だ」


『…随分と察しがいいじゃねーですか』


「まぁな。ただし、今日は晩に大仕事を控えてる事を忘れんじゃねェぞ」


『ラジャ』



ニヤリと笑いながら軽く返事をした×××は、土方が指した奥へと向かって足を進めた。

久々な稽古場の雰囲気と、少しの緊張から自分の纏う空気が変わるのが分かる。


×××のいつもと違うオーラに隊士達は素振りの手を止めて×××を見つめていた。

×××の目線の先には無表情に腕を組んで立っている沖田。


×××は沖田との距離、三メートルという所でピタリと止まると、沖田に向かってスッと竹刀を突き付けた。

その光景に隊士達の間に緊張が走り、近藤と土方も二人の様子を静かに見つめていた。



『一番隊隊長、沖田総悟…俺と、勝負しろ』


 
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