黒豹奮闘記
□第拾九幕
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「×××!!」
負傷した自分を振り返った×××の隙をついて、×××が相手していた男が彼女の頭を鈍器の様なもので殴った。
鈍い音と共に崩れ落ちる彼女の姿は沖田の目に、まるでスローモーションがかかったかのように映っていた。
思わず目を見開いてその光景を見つめる沖田を視界に入れつつ、殴った男は彼女を肩に担ぐとニヤリと沖田に笑いかけた。
「っ、退けッ!!!」
沖田は立ち塞がった最後の浪士を斬り捨てると瞳孔の開いた目でその男を睨みつける。
「そいつを…そいつらを離しやがれ」
「くく…随分とこの女にお熱の様だなァ?」
「黙れ」
「フン。好きな女、とでも言うところかぃ?」
「黙れっつってんだろ」
気絶した×××の顔をまじまじと見るその男に殺気を放ちながら沖田は、静かに、しかし確実に怒りをあらわにした。
普通の人間ならばとうに逃げ出しているであろう程の殺気だ。
だが男は愉快とでも言うふうに笑っている。
それは沖田が自分にむやみには攻撃出来ないと分かっているからか…もしくは余程の手練れなのか…。
自分には一気に間合いを詰める事など簡単だ。
しかし、上手い具合に間合いに×××を掲げられていては下手に動けない。
沖田は内心舌打ちしつつ、下衆が。と毒づいた。
「ククク…下衆で結構。我等特効党に貴様ら幕府の犬共に勝目などあるまい!ハハハ!」
「(特効党…!?)っ、待ちやがれ!!」
高らかに笑いながら屋根へと飛び上がった男を追おうとした沖田だったが、逃げ様に男が放った煙玉の様なものに視界を覆われ、激しく咽せ込んだ。
ゴホゴホと咳込み、煙が晴れた後には既に男の姿は影すらもなかった。
「くそ…っ」
今すぐにでも駆け出してあいつを助けたいのは山々だ。
だが、自分一人で勝手に動くわけにはいかない。ましてや相手は今晩自分達が突撃する予定の特効党。
おそらく奴らは今晩の自分達、真選組の突撃を知って人質を用意したのであろう。
大方、交渉材料というところか。
となれば自分達が突撃するまでは彼女達は安全な筈だ。
それに…あいつはそんなヤワじゃない。
とにかく自分が今するべき事は…
「チッ…」
沖田は舌打ちすると全速力で屯所に向かって駆け出した。