オリジ小説

□FR∀ME-フレーム-
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ファインダー越しの世界が
私の見ている世界と違う気がして
なんとなく好きだった。


芝生の上に寝たまま
空にピントを合わせて
シャッターを切る。

適度に2・3枚撮った後
顔からカメラを離して撮りたての
写真を画面で見てみると
思わず笑みが零れた。


「うん、綺麗だ」

手元には群青色の空。

白も黒も赤すら存在しない。


デジタル一眼レフカメラは
とても便利だ。

撮った被写体を綺麗のまま
すぐに確認できるし
不要な物もすぐ消すことができる。

昔のカメラマンの出費は
今と比べると相当違っただろうと
のんびり考えながら
私はカメラの電源を落とした。

「いい天気だ」

愛機を近くに置き
今度は肉眼で空を見る。

春から夏に移る放課後のこの時間は
太陽も西に傾いて夕日になるので
日差しも強くない。

じっくりと空を見る事も
のんびりと日向ごっこもできる
とても有意義な時間帯だ。

晴天の空の下で
私は仰向けに寝っ転がったまま
ゆっくりと背伸びをした。

綺麗な物を綺麗なまま
留めておく事を可能にした
カメラを開発した人は偉大だ。

しかし私はカメラの歴史も
詳しい機能も全く知らない。

ただ綺麗と思った被写体を
撮るだけの単なる写真好きのド素人だ。


「諸橋〜」

天気も良いのでこのまま
昼寝でもと思っていたら
自分を呼ぶ声がした。

寝たまま首だけで声のする方を見ると
童顔の女性が書類を片手に
手を振りながらやって来る。


「また寝っ転がって写真撮ってたのか?」

「見ての通りです。てか先生なんですかその荷物?」

「ん?これはなパソコン部の連中のだよ。検定の申し込みやらその検定対策に使う例文の載った資料やら…まぁ色々だな」

お前も受けてみるか?の問いに
いいえと断ると苦笑いが返ってきた。

今年30だと言っていたが
パソコン部兼写真部顧問の
佐伯芦乃は恐ろしく小柄で童顔だ。

下手をするとまだ10代ギリギリ
見えでも可笑しくない。

加えておおらかで面倒見がいい性格は
生徒にもウケが良く友達感覚で
接している生徒も少なくない。

勿論私もその一人だ。


「先生資料持ちますよ」

「え?いいよ諸橋、部活中だろ」

「いいですよ暇なんで」


愛機を手に取り首に掛けつつ起き上がり
制服を叩いて汚れを落とすと
本人の承諾の無いまま資料を持った。

資料は20cmくらいの小さな大きさだが
小柄に童顔の先生が持つと
とても重たそうに見える。

「暇って…顧問にそれを言うか?普通」

「良いじゃないですか。実際、体育祭と文化祭の大きな行事以外は忙しくないですし」

「コンクール応募しても諸橋は何も貰えないしな」

「先生もそれを本人に言いますか」

「ははっ、悪かったって」


悪びれた様子も無いので
何か言い返そうかとも思ったが
本当の事なので何も言い返せなかった。


「でも諸橋がいてくれて助かったよ。あのままじゃ写真部廃部だったもんな」

「人員確保と荷物持ちくらいしか役に立ってませんよ?」

「私にはそれで十分さ。写真撮るの好きなんだろ?私は諸橋の写真好きだぞ。写真の知識や才能にセンスすら無いド素人でもまあまあ良い写真撮るんだな…って諸橋の写真見て勉強したしな」

「荷物投げ捨てますよ」

酷い言われようだ。
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