Present's
□『突発性恋愛事情』
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空座第一中学校、放課後の教室。
「冬獅郎! 早く帰ろうぜ?」
「ああ。でも帰りにマック寄ってくんだろ?」
「おう!」
いつもと変わらぬ日常で、いつもと変わらない言葉だったから、俺はちっとも気付かなかった。
それを意識した事すら、今まで無かったというのに。
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「一護、お前また絡まれてたろ、この間」
「へ? なんれひってんの?」
ハンバーガーを口一杯に頬張っていた所為で、上手く言葉が出なかった。
それでも目の前に居る冬獅郎には伝わっているようだった。
「何で、って…お前の動向はすぐ耳に入るっつうの。お前目立つんだから」
「お前らって…うぐ……同じじゃねえか」
ゴクン、と頬張っていた物を飲み込んで、ジュースを口に入れる。僅かな酸味が広がる。
冬獅郎がハァ、と溜息を吐きながら、ちらりと店の窓ガラスに眼を向ける。正確には、その向こうに見えるバイクと黒い制服の人の固まり。
「それもそうだな」
あぐ、とポテトを口に入れているだけなのに、その仕草は凄く大人びて見えた。
「今日は裏口から出るぞ」
「ちょっと待て! まだポテト食ってない」
「さっさと食え。もしかしたら強行突破かもしんねーぞ」
冬獅郎の言わんとしている事が分かって、俺はポテトを抓みながら黙って頷いた。
「中学生に絡んで何が楽しいんだか」
「気にいらねーからだろ?」
冬獅郎はチラリと横目で視線を送りながら、そうだな、と一言呟いた。
その視線に熱が込められていた事に、俺は全く気が付かなかった。ただ、綺麗な色なんだといつも思っていた。
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