参加企画、作品堤出

□泣いてるわけないだろ
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日が落ち、藍色の闇が下りたクラブハウス

「誕生日おめでとう!」

学園から帰ってきたルルーシュを待ち構えていたのは、大事な家族と愛する人の祝福の嵐

リビングに入ろうとドアを開けたら、一斉にクラッカーを鳴らされた

「これは……一体!?」

困惑するルルーシュにスザクが声を弾ませて話しかける

「やだな、ルルーシュ」
「今日は兄さんの誕生日だよ」

笑顔でルルーシュを迎えてくれたロロもまた、屈託のない笑い声を洩(も)らす

「フフッ、お忘れでしたか?」

茶目っ気たっぷりな口調で言うナナリーに

「ああ、そういえばそうだったな」

いつものように肩を竦め微笑んでそう告げる

(ごめん、ナナリー。本当は忘れてたんだ)

年の瀬も迫り、何かと慌ただしく疲弊仕切ったルルーシュ自身、たった今思い出したのである

この誕生会を立案及び主催したのがナナリーらしいので、絶対口に出しては言わないが

「昨日からこっそり、僕とロロとナナリーでご馳走を作ってたんだよ」

木製のテーブルの上に置いてある料理に目を見遣るルルーシュ

いちごショートのホールケーキを真ん中に、日本料理、イタリア料理、中華料理、と色とりどりの料理が区別され並べられている

極めつけは三種類のカレー付の美味しそうなナン

「ほう…なかなかよく出来てるじゃないか」

見た目は実に素晴らしいのだが、やはり肝心の味の方が心配なのでスザクにしてはと、一言付け加えておく

「でしょでしょ!」

しかし嬉しそうな笑顔を見せるスザクに、相手の努力を無に帰す、無神経な発言を平気でするほど薄情ではない

「僕達も頑張ったんだよ」
「プレゼントも用意してるので楽しみにしてて下さいね」

ルルーシュの左腕に自分の腕を絡ませ甘えるロロと、兄の滑らかな手を握り、愛らしい表情を見せるナナリー

人間が人間らしく生きてゆくには、やはり家族の存在が事欠かせない

ルルーシュはこの二人と一緒に過ごす時のこの空気が好きだ

勿論スザクと一緒にいる時もだがそれとはまた違う

どこか気持ちをほっとさせてくれる

「じゃあ、主役も来たことだし」

見つめるスザクの目にナナリーは頷いた

「お兄様の誕生会を始めましょう」

主役のルルーシュを含め、ロロ、スザク、ナナリーの4人でささやかながら誕生会が行われた

所定の席について各々会話を交えながら、いつもよりちょっぴり豪華な料理を楽しむ

見慣れない日本料理を味わい作り方を聞くルルーシュと、調味料なら適当に混ぜたと汚れのない笑顔で答えるスザク

景気づけにシャンパンを飲もうとするナナリーを必死に止めようとするロロ

「スザク」
「何?」
「ひとつだけ疑問があるんだが」

視線を宙に浮かし、何かをずっと考え込んでいるルルーシュを不思議そうに見つめる

「なぜ刺身にウスターソースがかかってる?」

目の前にあるのはウスターソースがべっとりと絡ませてある鮪(まぐろ)の赤身の刺身

スザクに奨められ、一度は手につけようか躊躇(ためら)ったのだが、どうも食べる気にならない

と言うか、一生食べる気にはなれない

「え?だってその方が美味しいでしょ」
「…お前の味覚は規定範囲外なんだな」

短い溜め息をつき、思わず言葉を濁してしまう

「兄さん」

体力と同じく、味覚のバランスも常人離れしているスザクと話していると、ロロが遠慮がちに話しかけてきた

「なんだ?ロロ」

クリスマス仕様の包装紙で綺麗にラッピングされた、菓子の折り詰めくらいの大きさの箱が、ルルーシュの目の前に差し出される

「こっこれ、僕から兄さんへの、誕生日……プレゼント」

期待に胸を高揚させ、兄の反応を伺うロロ

ルルーシュの胸の中に、それまで感じたことのない嬉しさが芽生え始めた

「プレゼント…開けていいか?」
「うん」

ロロからのプレゼント

それはルルーシュが前から欲しがっていた、各国の細い筒型の万華鏡のセットだった

「気に入って……くれるかな?」

極度の緊張のせいか、ロロは照れを隠すようにルルーシュから視線を逸らす

「ありがとうロロ、大事にするよ」

ロロのミルクブラウンの髪を撫でる

目を輝かせ、嬉しそうにはにかむロロを見つめるルルーシュの眼差しは、慈しみに溢れていた

「お兄様」

清廉で透き通った声がルルーシュの名を呼ぶ

「私からもプレゼントがあります」

ピンクの紙袋から何かを取り出すナナリーに何を用意してくれるのだろう?とひそかに胸を踊らせる

「…ナナリー、これは?」
「宇宙怪獣ステファンです。私の手作りです。お兄様の為に、一針一針心を込めて縫いました」

妹のナナリーが兄であるルルーシュの誕生日に用意してくれたプレゼント

大きな二重の目に黄色の分厚い唇

左手には、お誕生日おめでとうと書かれた白いプラカードを持っている

どこかで見かけた風貌をしたあひるのようなぬいぐるみだった

ナナリーと視線が合う

妹思いのルルーシュは、この状況にどう反応したらいいか分からず、気まずい雰囲気に飲まれる

「えっと…ナナリーは怪獣とか、そういう類のキャラクターが好きなのかい?」

ルルーシュが当惑の顔をナナリーに向け首を傾げる

(まさか…!あのステファンがナナリーの好きな男のタイプなのか!?)

以前よりルルーシュの胸で燻(くすぶ)り続けているある疑問が頭をもたげてきてならない

「はい、とても。寡黙なところとか…オッサンじみた考え方とかが。ステファンはヤクザと対立するんですけど、ある以外な方法で勝利を収めるんです」

要点をかいつまんで説明し始めるナナリー

「…と言う訳で再び地球に平和が戻ったんです。お兄様も好きでしょう?エリザ……じゃありませんでした、ステファン」

見当はずれの話にルルーシュは一瞬、倒錯にも似た戸惑いを覚える

「でも、さすがにそれだけでは足りないと思って」
「まだ、何かあるのか?」
「はい!」

そう言うとナナリーは、懐(ふところ)から旅行会社のパンフレットを取り出す

クリスタルブルーの海に、きめ細やかな純白の美しいビーチ

南国の楽園を連想させる数々の綺麗な風景が写し出されている

「私からはあともうひとつ。モルディブ七泊八日のプレゼントです」

スザクとルルーシュとロロ、全員が一斉にナナリーに視線を注ぐ

「スザクさんと愛を深めに行って来て下さい」

ルルーシュが背筋を伸ばし、驚いたとでも言うような天仰な仕種をした

桁違いの反応を見せる三人を面白そうに眺めるナナリーの顔には、好奇心が滲み出そうになっている

こう来ればルルーシュにプレゼントをくれる人物は、一人しか残っていない

先日、愛を深めあったスザクからのプレゼント

「ルルーシュ……いつ打ち明けようか、ずっと迷ってたんだけど」

スザクは昂(たか)ぶる気持ちを鎮めて立ち上がり、ゆっくりと口を開いた

「僕と、結婚、して下さい…!」

情熱的なプロポーズにルルーシュの頬が紅潮し、胸中が揺れる

「ぜっ!全力で妻にするから!!」

カジュアルなジーンズのポケットから、この日の為に予(あらかじ)め用意しておいた眩(まばゆ)いダイヤの指輪

「生まれてきてくれてありがとう」

左手の薬指に幸せを象徴するかのような、小さなダイヤが埋め込まれた指輪をはめてくれた

「ス……スザク!」

ルルーシュの胸の中に、何か衝撃にも似たようなものが込み上げてくる

最後にスザクが放った言葉を聞き、迷っていたルルーシュの心を掻っ攫(さら)って行った

熱烈なスザクからのプロポーズを快(こころよ)く応じる決意に導いたその言葉とは…

「ルルーシュ、愛してるよ」

あまりの感動に心打ち震わせたルルーシュは、自ら望んでスザクの腕の中に飛びつく

「返事は?」

優しい視線を注ぐスザクにルルーシュは目を閉じて、指先で目頭をじっと押さえている

「馬鹿、決まってるだろ」
「だと思った」
「仕方ないからお前のところに永久就職してやる。感謝しろよ?」

こんな時まで憎まれ口を叩くルルーシュ

だがそこに刺のある口調は含んでおらず、むしろ形のいい唇には笑みすら浮かんでいる

「結婚式の日時はまだ決まってないけど……新婚旅行はモルディブに決定だね!」

きっとルルーシュは、今こうして言葉にすることによって、胸の奥深くに封じ込めていた枷を解き放っている

「泣くほど嬉しいのかい?」

からかうスザクに、涙に濡れている紫水晶の瞳を向けたルルーシュは

「泣いてるわけないだろ」

と、訝しげな表情で答えた

どこまでも虚勢を張り、涙混じりの声で答えるのでまるで説得力がない

細い肩を震わせているルルーシュを、再度引き寄せ固くその体を抱きしめながら、懸命に伝える

「愛してる……世界で、一番、愛してる。僕の……僕だけのルルーシュ」

ルルーシュの鋭い視線をやんわり受け止めながら、スザクは笑みを混じえて愛をの台詞を囁いた

「君以外、何もいらない」

心から二人の結婚を祝うロロとナナリーの、喝采の拍手の音が遠く聞こえる

朦朧とする意識の中、襲いかかるどこまでも甘美な陶酔感

スザクの温かい胸に顔を埋めたルルーシュは、しばしの間、縋りつかんというばかりにそれに溶け込んだ

与えられた幸せを素直に傍受する兄を見、安堵し微笑み合うロロとナナリー

今まで生きてきた中で、一生の記念に残る最高の誕生日となった――
















お題拝借、確かに恋だった様

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