ミッドナイト・トラベル

□第二夜
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ミッドナイト・トラベル

〜第2夜〜




業務用の連絡無線から、機械音の声が聞こえる

コンピューターで制御されている列車からだ

普段なら、あらかじめプログラムされた音声で列車を迎えるのだが、このSLは特別だった

歓迎の音を響かせる

「こちら、――…鉄道管理局。メガロポリス総合コントロール室!!ようこそ…―――!99番ホームへのポイント接続は完了した!!」

機械音が、その列車の心臓とも言える部分、中央制御室から武骨な声で返答が聞こえた

「了解!!コチラ…―――!!反重力スタビライザーOFF、空間フラップ作動30秒前。重力ブレーキ60パーセント!!」

目的地の星の名称は

「到着予定時刻、地球時零時零分零秒!!」

前車両から、制服を着た車掌らしき人物が言葉を発する

「次の停車駅は、地球メガロポリスステーション。停車時間は24時間…で、ありますが…」

「で、ありますが?」

金髪の女性が座席に座ったままの状態で、困惑している車掌に、はっきりとした口調で問う

「は、はい――――…様。なぜ行き先を変更して地球へ降りるのか…と……つまり…」

全身、黒の喪服の衣装を身に纏う女性は

「運命です」

と言い放ち、目尻に涙を溜(た)めながら、定期(パス)入れを握る

ある…共に旅を人物との再会を胸に

特別に許可が降り、地球に降り立ったSL

その特別な列車とは



銀河系の鉄道株式会社が運営する




名を「999」(スリーナイン)と呼ばれていた




「シン、知ってる?」

「…何を?」

ミーアはシンに背を支えてもらい、淡々と話し始めた

自分が抱いている夢のような話を

「この世界のどこかには、宇宙(ソラ)を飛ぶ列車があるんだって」

シンは最初は軍の戦艦や、宇宙船のことかと思ったがそれは違った

なにせミーアは列車と言ったのだから

「ミーアはそれに乗りたいのか?」

シンが不思議そうに聞き返す

「うん、小さな頃に一度だけ見かけたことがあるの。それからずっと…」

うっとりとした表情で静かに話す

こんなミーアの姿を見るのは初めてだ

いつもは元気にはしゃぎながらしゃべるのに

「ふ〜ん…聞いたこともないな。そんな話」

「そうだよね……やっぱり」

ミーアは暗い気分になり、暗く塞ぎ込んでしまう

自分の失言のせいで彼女を落ち込ませてしまい、シンは物痒(がゆ)い罪悪感に駆られた

あきらかにおかしい

「ミ、ミーア!ごめんっ…!」

慌てて弁解するが、ミーアの翳りは一向に変わる兆候をみせない

むしろそんなシンを気遣い無理して笑っているようにみえる

こうしてると何だか自分まで悲しくなってくる

「いいのよシン、話を聞いてくれるだけでも嬉しいの」

「……ミーア」

「あたし…元々、一人ぼっちだったし」

「え…ええっ!?」

シンはその単語を聞き取り驚愕する

「なぁに?そんなに驚いちゃって」

ミーアはシンをからかうような素振りだ

「じゃあ…両親は?まさか、いなかったのか?!」

「そのまさかよ。あたし、孤児院で育ったの。歌手を目指す為に、14歳の時…飛び出してきちゃったけどね」

ミーアは性格からして、活発で好奇心旺盛

普段も明るいし常に笑顔を絶やさない

俺も戦争に巻き込まれ、十四歳で家族を亡くし戦災孤児となったが、ミーアは生まれた時から両親がいなかったのだ

そんな過去があったなんて…

プラントの歌姫の過去を初めて垣間見た

それでもミーアは辛さなど一切見せず、自分の過去を振り返り楽しげに語る

まるで昔の自分を拭触するように

「でもね…まだ14歳だったからぁ。働くの大変だったわ」

俺は、ミーアの苦労話を何分か聞いた

聞き逃したところは特に無かった

必死で生活費を稼ぐ、苦しい当時を思い出したみたいだ

途端、ミーアの顔が少し青白さを増した

「具合…まだ悪いのか?悪いなら先生を」

「別に、大したことないから」



ミーアは直感的に感じていた

十四歳のあたしの前に現れたあの人が

“ここに来る”と

「それよりシン、早くアスランに会いたいな」

「アスランさんか。艦長に許可はとってあるし、一緒に行こう」

シンはミーアの気持ちを察し、全指揮権を任されているマーカス・スィージー艦長に、事前に“脱走兵の見張り”を申し出て許可を取っていたのだった

「車椅子用意したから。ミーア、立てる?」

「うん、ありがとう」

車椅子にミーアを乗せて部屋を出た

艦の振動に耐えながら、アスランのいる医療室に向かう

軽くノックをしてから医療室に入る

アスランは医療室で治療を施されていた

「アスランッ!」




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