恋の蕾

□恋の蕾[
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その夜。
夕食も終え、風呂から上がったトランクスは、コウのいるキッチンへと来た。
カチャカチャと洗い物をしているコウの姿を、じっと見ていた。

当然、背後にトランクスがいることに気付いているコウは、振り返らずどうしたのか尋ねた。




ト「……コウさん、洗い物手伝います」

『え? …ありがと』




コウの隣に並んで、泡のついた皿を水で洗い始める。

今までなら、見上げなければ見られなかったコウの顔。 それも今では、目線を横に動かすだけで見られるまで身長は伸びていた。
コウと然程(サホド)変わらない身長差が嬉しく思う。

そんなことを考えていると、隣から小さな笑いが漏れた。




ト「…コウさん?」

『あ、ごめん
なんか、すっごい新鮮で』




意味がわからず、小首を傾げるトランクス。




『いつも隣に立つのって、お母さんかブルマさんだし。 家でだって、お兄ちゃんや悟天が立ったこと一度もなかったから

なんか、変な感じ』

ト「オレもそんな、めったに立つことないし…」

『それでも、こうして手伝ってくれるでしょ?
悟天にも、見習ってほしいものだよ』




嬉しそうに言うコウに、トランクスの表情は沈んでいった。
小さな心に仕舞いきれず、ポロリと本音が零れてしまった。




ト「オレは……いつまで経っても、悟天と同じ”弟”なんですね…」

『え…?』




トランクスに思わず視線を向けた。
悲しそうで切なそうな、そんな表情のトランクスが瞳に映った。


弟。
この言葉がトランクスにとって、どれ程辛い言葉なのか。

思春期真っ只中の彼にとって、苛立ちや、憤りと言った負の感情しか生まない。

そんな気持ちを、コウも知らないわけじゃない。




『そうだね…
でも、血の繋がりがあるわけじゃないし
いつの間にか、こんなに背も伸びてるし

だんだんと、男の子から男の人になってくんだなって…』




意外なコウの言葉に、目を見開いた。




『いつまでも弟扱いしてから、トランクスに申し訳ないでしょ?』

ト「……コウさん」




嬉しかった

コウさんは、ちゃんと”男として”オレを見てくれていた



だけど…だったら、昨日の反応は?




ト「…でも……コウさん、昨日オレの裸見て、至って普通でしたけど……」




言いにくそうに、でも聞かないわけにはいかない悩みの種を、恥を承知で聞いてみた。




『…ばかね
普通にしてなきゃ、気まずくなるでしょ…!』




少し頬を紅く染めるコウに、馬鹿みたいにときめいてしまうトランクス。




ト「(や…やばい……かわいい…)」




と、そんな幸せをかみしめられるのもほんの一時。 コウの次の台詞に地に落とされることになった。




『それに、ベットの下にいやらしい本なんか隠してるくらいだし』

ト「なっ?!! なんで、そんなこと知って…っ!!」




思わず肯定しかけた口を、慌てて手で押さえるが既に手遅れだった。




『この前、洗濯物を置きに行った時に見つけちゃったv

でも、トランクスくらいの年頃なら、そういう本の一冊や二冊、あったって普通でしょ?

悟天なんて、部屋掃除するたびに見つかって、今じゃ堂々とベットの上に置いてあるから』

ト「…あいつ〜……」




悟天のふしだらさに、自分までもが恥ずかしくなるトランクスだった。




たけど、コウはちゃんと今の自分を見てくれている。
自分とコウの関係も、それなりに成長しているのだとわかった。 それが何より安心した。




『よし! 手伝ってくれたおかげで、早く終わったよ

ありがと、トランクス』




にっこりと笑顔を向けてくれるコウに、抱きしめたい衝動を抑えつつ、笑顔を返すトランクス。



今は
まだ、触れてはいけない距離。

フライングしてしまえば
確実に、この笑顔を二度と向けてくれなくなる。



だから 今は

この甘くて切ない距離を
満喫しよう




・END・
15/6/14
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