短編

□君に願いを・・・*
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面倒なHRがようやく終わり、
僕は彼女である千鶴ちゃんを迎えに行くため、隣の校舎を目指して歩いていた。



目的の教室の前に着くと、すでにHRが終わった時間のはずなのに、教室からは沢山の声が聞こえてくる。
空いているドアから教室内を伺えば、何人かの人でつくった円の塊がいくつか出来ていた。


その塊の中に千鶴ちゃんを発見した僕は千鶴ちゃんのいる場所へと歩を進める。


「千鶴ちゃん」

「あっ総司さん!すみませんお待たせしてしまって・・・」

「いいよ。それより何やってるの?」

千鶴ちゃんとその周りにいる友人たちの前の机には、色とりどりの折り紙が散らばっている。
折り紙を繋ぎ合わせた輪が一番に目に入った。



「誰かの誕生日会でもするの?」 

僕の質問に千鶴ちゃんはクスクス頬笑みながら「違いますよ」というと、得意げな顔になる。

「七夕の飾りをみんなで作っているんです」
「七夕?」

そういえばそんな時期だったか・・・・でも・・・・

「君、高校生にもなって七夕?」

「先生が笹を貰ってきてくださって、せっかくだから、みんなでお願い事を書こうってなったんです」

楽しそうに話す千鶴ちゃんは「総司さんもお願い事書きますか?」と僕に短冊とペンを勧めてくる。

「いや、僕はいいかな。それより千鶴ちゃんはなんて書いたの?」
「私ですか?私はこれです!」


千鶴ちゃんが見せてくれた短冊には、整った綺麗な文字で
『みんなが健康に暮らせますように』
と書かれていた。

なんだか少し期待外れだなと思い、机に視線をずらすと
千鶴ちゃんの机の上の端にもう1枚短冊が置かれているのに気付いた。


「千鶴ちゃんそっちのは?」
「え!あっ・・・これは飾らないからいいんです!!」

明らかに動揺する千鶴ちゃん。

「いいってなんで?僕には見せられないようなことをお願いするつもりなの?」


少し強い口調で言えば、千鶴ちゃんは視線を左右に泳がせ、
観念したのか、短冊を総司に差し出しながら口を開いた。


「これは・・・その・・・織姫と彦星に叶えてもらわないで・・・
えっと総司さん自身に叶えていただきたいなと思ったので・・・」


だから1度書いたけれど飾るのはやめたのだと千鶴ちゃんは話してくれた。


差し出された短冊には

『総司さんとずっと一緒にいられますように』と書かれている。

これは昔・・・今この時代に生まれる前に僕たち二人が願った願い。


真っ赤に顔を染める千鶴ちゃんが可愛くて、愛しくて


「そうだね。この願いを叶えてあげられるのは僕だけだ・・」


そっと千鶴ちゃんの頬に唇を寄せる。
そのままぎゅっと抱きしめたかったが、
今まで黙っていた平助君から「他でやれ!」と怒鳴られてしまった。



昔も今もこれから先も・・・
ずっと君を守っていくよ。
君が望む限りずっと一緒にいる。








end



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