フリリク

□燕様へ
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「凡っみてみて!!!」



「んー…?」



休日のお昼、凡はカチカチとゲームをいじり、つくしは朝からジョギングに出かけている。

玄関のドアが開き、どたどたとつくしが帰って来た。俺の方になにかを差し出してくるが



「つくし、ちょっと待って。今ボス戦……」


「ニャア」



ガタガタッ








「ぇ、凡?」


いきなりソファーごとひっくり返った凡。


「なんつー器用なことを…、いや大丈夫か凡。」



凡を見れば倒れた格好のままこちらを食い入るように見つめている。

傍に転がっているゲーム機の画面にはGAME OVERの文字が。

しかしそんなゲームには目もくれず、凡はひたすらつくしを見ている。


いや、正確にはつくしの腕の中の"それ"を見ているのだ。



白く小さい体。長いしっぽはゆらゆらと揺れ、少しだけ垂れた耳はピクピク動いている。



「ニャア」


「なっんで猫がいるんだよっ!!」



つくしの腕の中には可愛らしく鳴く真っ白な子猫。

頭を撫でて可愛がるつくしとは対称的に怯えて近づこうともしない凡。

つくしがニヤリと笑う。



「凡まさか……、」



凡の顔からサァッと血の気が引いた。



「猫苦手なんだ!!」



「ぎゃああ!!おまっ普通子猫を投げる奴がいるかっ?!」



「大丈夫だってそんなんじゃ猫は死なないから。」




反応を見るに本気で猫は苦手らしいが、本来が優しい性格のためか投げ渡された子猫を振り払うことなくキャッチした。


大人しく凡の手に掴まれている子猫を極力体に近付けないよう腕を伸ばしてつくしに突き付ける。

極めつけの一言は。




「もとあった場所に戻してきなさい!!」



お前はおかんか。






























「ほら食堂行こうぜ、つくし。」


「こいつを置いていけない。」




子猫とじゃれるつくしを何か言いたげに見つめる凡。


「置いていってこいつが飢え死にしてたらどうする。」


「知らん。」



即答する凡にしゅんとうなだれるつくし。

うっすら涙目だ。



「……………凡。」



上目遣いで見上げてくるつくしと子猫。

凡の顔が引きつる。



「…俺を見捨てるのか。」


ジクジクと良心が痛む。涙目のつくし、そして心なしか悲しそうな鳴き声をあげる子猫。



「っわかったよ!!俺がご飯作ればいいんだろ?!」

「やった!!でも毒はいれちゃダメだから。」



釘を刺しておく。




































「だぁっ!!こぼして食べるなっ肘をテーブルにつくな!!茶碗は持って食べろ!!」



凡の手料理は美味しい。

しかし、



「凡、お母さんみたい。」


「だまらっしゃい!!」




猫も満腹になって満足したのか、ソファーの上で寛いでいる。

そんな猫のお腹を撫でながらつくしが笑う。




「美味しかったか?つぼ」


スパンッ



「いった!なんで殴るのっ?!」


「なんでじゃねーよっ!!なんつー名前をつけてんだお前は!!」




頭を押さえるつくしを仁王立ちの凡が見下ろす。



「つくしのつと、凡のぼで"つぼ"。」



「んな夫婦が自分の子供に名前つけるノリでつけんなバカッ!!」



怒鳴る凡だが、若干顔が赤い。

つくしが拗ねたように口を尖らせる。



「じゃあ、つぼみ。」


「みがついただけだろ。…………ま、いいけど。」



かわいいかわいいと猫のお腹を撫で回すつくし。

俺には何故、そんなものに触ろうとするのかも分からない。


一向に近づこうともしない俺につくしが首を傾げる。



「なんでそんなに猫が嫌いなんだ?猫アレルギー?」


「違う。」




別に猫に触ったり近づいたりしても体に異常は出ない。精神的に苦痛だが。



「前に飼ってたときがあるんだ。黒いやつ。」


「飼ってたのに苦手?」




子供の俺なりに可愛がってたそいつはクロ。

弟と一緒に毎日遊んで、時々取り合いになったりして、本当に楽しい毎日だったよ。



「……あの事件が起こるまでは」


「……事件?」



俺の話を固唾をのんで聞き入るつくし。つぼみもここなしか俺の話に集中している気がする。



「ある日家に帰ってみればクロの姿が見当たらない。家中を探した、風呂場もトイレもクローゼットの中も。」



探し回った末、クロを見つけたのは二階の俺の部屋。

嫌な音が聞こえてくるその部屋の薄く開いているドアを覗きこんだ。


そして目に飛び込んできた光景に体が一瞬にして凍り付いた。


ムシャムシャとなにかを貪り食うような音はクロの口元から。


そして、クロの口元にのぞく黒い物体。


それには見覚えがあった、夏によく見かける黒光りする奴。




「……そいつの頭文字はG。」


「「……………。」」



「その日からはクロに触ることは愚か、近づくことも出来なくなった。」




自嘲気味に笑う俺につくしが言葉をなくす。



「きっとそいつだって知らない所で何を食べているか………」


「つぼみはそんなもの食べないっ!!」



つぼみを抱き締めて俺の言葉を否定するつくし。つぼみも同意するかのようにしっぽを振って鳴いている。


「ほら、こぉんなにかわいいつぼみがあんなグロテスクなもの食べると思うか?」


「……………。」


「ふわふわで真っ白で小さいつぼみがあんなカサカサ動きまわるものを食べる訳がない!!」


「ナァ」



そうだそうだと抗議するようにつくしの腕をしっぽでテシテシとたたくつぼみ。

そんなつぼみをじぃっと見つめる。本来、猫が嫌いな訳ではないので確かにかわいいとは思うが、あのシーンがリアルに頭に浮かぶのだ。



「つぼみの好物はミルク。」


「ミルク……」


「つぼみの大好きなものは猫じゃらし。」



「猫じゃらし……」



何回かそんな暗示めいたやりとりをしたあとで、恐る恐るつぼみの頭に手を伸ばす。



ポンッ





「………………。」



温かい。

ふわふわする。



「………………。」




なでなでなでなで



「どうだ、かわいいだろう。」


「……かわいい。」




触ってみれば、案外平気だった。触り心地も良いし、確かにこいつがあんなものを食べるとも信じ難い。


目を細めて気持ちよさそうに鳴くつぼみは、どうだと言わんばかりに鼻をならす。

それを見てつくしが笑う。


「つぼみは人の言葉が理解できるのかもなぁ。」


「ああ、そうかもな。」



つくしの膝の上で無防備にお腹を見せるつぼみはどこか普通の猫とは違う。



「もしかしたら妖怪だったりして……」



笑って言えばつぼみに引っ掻かれた。



























「だぁあっ!!片付けたそばから部屋を汚すなっ!!」



つぼみと打ち解けた凡だが、世話をする奴が2倍になったため苦労が2倍だ。

人の言葉が分かるらしいつぼみだが、やることは普通の子猫と一緒でさっきから部屋の中を暴れ回っている。


「つくしっ!!自分の部屋をさっさと片付けろっ!!」


「……あ、明日に。」


「先週からずっとそう言ってやってねぇだろがっ!!」



自室に入ろうとしないつくしの尻を蹴飛ばして部屋に無理矢理押し込む。



「横暴だぁっ!!」


「ニャアッ」


「うっさいっ!!黙って片付けろ!!」






おわれっ!!



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