フリリク

□リクエスト
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「はぁ、はぁ」



大分走った気がする。後ろから追いかけてくる気配どころか人の気配すら感じられない。


そういえば、今は授業中だ。人がいないのは当然だろう。



「にゃんで………」



なんでこんなことに……。


もしかして俺は一生このままなのか?

そんなん地獄だ。


1人廊下にしゃがみこんで頭を抱えていれば、コツコツと誰が近づいてきた。

誰だと思い、しゃがみこんだまま後ろに視線を送る。

始めに目に入ったのは相手の靴。そこから段々と視線を上げていき、相手の顔を確認する。





「あれ?染井君、そんなところで何してるんだい?」

「や゙ぁぁああああっ!!」




ちょこちょこと跳ねるふわふわの髪に人の良さそうな笑顔はどこまでも爽やかな彼は、寮長である亜麻 小良先輩。


いきなりラスボスですかぁああああ?!



「ん?どうしたの染井君。そんな泣きそうな顔して。」



あんたのせいだよっ!!


しかし、今声を出してしまえば俺の人生はここで終わる。



「風邪でもひいたのかい?」



マスクをつけた俺に気付いたらしい寮長が近づいてくる。

頷きながらジリジリと後退る。



「ふぅん。早く治るといいね。」



良かった、なにも気付いてない。寮長は妙に勘がいいときがあるからな…。

取り敢えずほっと息をつく。



「あ、そういえばさ。」



思い出したように寮長が笑う。


































「凡君の毒飲んで赤ちゃん言葉しか喋れなくなったんだって?」



ピシッ




「取り敢えず、放送室にいこうかっ」



これまで見たことのない程に輝く寮長の笑顔。


その手に握るは、お気に入りの武器。


ブィィイインッ




「まあ、染井君が泣いて叫ぼうが必死で抵抗しようが引き摺っていくけど。」



ぎゃぁぁあああっ!!



















「あはは、そっちは放送室とは真逆の方向だよ。」


「やぁぁあああっ!!」



人生でこんなに恐ろしい鬼ごっこは始めてだよっ!!

授業中で人1人歩いていない廊下を2人で全力疾走。

どこかしらのクラスの前を通る度に全員が此方を振り向くが、後ろから追いかけてくる寮長を見ると一斉に視線を逸らす。



助けろよ教師っ!!





後ろからチェーンソー片手に追いかけてくる悪魔に気が飛びそうになりながら廊下の角を曲がる。




「ギャッ」


「あ゙っ?!」




ドンッ





曲がった先に人影が。

咄嗟に避ける余裕はなく、そのままその人影に突っ込んだ。


角を曲がったことで若干スピードは落ちたとはいえ、ほぼ全力疾走のまま相手に突っ込んだのだが、相手は少しよろけただけで俺の体をしっかりと抱き留める。


「しゅっしゅいましぇ…?!」



咄嗟に謝ろうと顔を上げるが、そこにいたのは。



「あ゙?てめぇは……」


「っ?!!」



真っ赤な髪にこれまた真っ赤な瞳。こんなに目立つ色の男は学園中探してもこの人1人だけだろう。ピンクとか青がいるならば話は別だが。



「あんときの外部生じゃねぇか。」



「…と。あれ、恋ちゃんじゃない。」




後ろから追い付いてきた寮長が俺を支える赤い男に気付いた。

赤い男は寮長を確認すれば嫌そうに顔を顰める。



「いやぁ、染井君を捕まえてくれたの?ありがとう恋ちゃん。俺たち今から放送室に行くんだよ。」


「別に捕まえてねぇよ。こいつが勝手に飛び込んできたんだよ。」




前には赤鬼、後ろには悪魔。俺はどうすれば………。

逃げ道はないか、そんなことを思っていれば、俺を未だ支えている木戸田先輩が愛刀を取り出す。




「その前にお前等、今は授業中だろぉが。」



鞘から刀を抜く木戸田先輩。



「あはは、ちょっとまずったかな?」



笑いながらチェーンソーを構える寮長。


挟まれる俺。



え、これってまさか"死"?




「や゙ぁぁあああっ!!たしゅけちぇぇええっ!!」



「っは?!」


「え……」




俺の言葉を聞いた2人の動きが止まる。

木戸田先輩はあまりの衝撃で愛刀を落とし、亜麻先輩はチェーンソーこそ落とさなかったがいつもの笑顔は見事に固まっている。



2人がやっと元の状態に戻ったとき、此方へ誰かが近づいてくる気配がした。


しかもそれは1人ではなく複数の気配。




「つくしっ!!無事か!!」


「大丈夫?!そこら辺の変態に変なことされなかった?!」


「煽るだけ煽ってそのまま放置プレイなんて、さすが俺が認めた男っ!!」


「てめぇ染井っ!!俺様のリーサルウェポンを肘うちするたぁどういうことだっ!!」




ドドドドドドッッ




迫りくる4人の男たち。





その4人の迫力に鬼と悪魔のコンビも2・3歩後退る。


その拍子に緩んだ腕の中から逃げ出す。




「てめぇ木戸田、つくしに変なことしてねぇだろうな。」


「あ゙?てめぇなに呼び捨てにしてんだ?年上は敬えって何度言ったら理解できるんだ、バカが。」



睨み合う凡と木戸田先輩。



「おいあんた、俺のつくしを泣かすとか死ぬ覚悟はできてんだろうな?」


「あはは、誰かと思えば生意気な坊やか。残念だけど染井君は俺のオモチャなんだよね。君のじゃないよ。」



笑い合う夜草と亜麻先輩。


土井と穂隅先生はいつもとかわらないからいいとして。



俺は蚊帳の外ですかぁ。





ポン



肩に手を置かれて振り返れば、ボサボサの髪にデッカイ眼鏡。



「……しゅおう。」


「所詮俺たちなんて脇役さ、脇役同士頑張ろうぜ。」


親指を立てている彼の顔は長い前髪のせいで確認できないが、目元に光るそれは紛れもなく涙だろう。



「ぅん、がんばゆ。」


「取り敢えず食堂行ってなんか食べようぜ。」


「うん。」





2人が食堂でおやつを貪り食っている頃、ようやくつくしがいないことに気付いた男たちが慌て学校中探し回ったとか。




おわれっ!!



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