if・you?

□椿が咲く頃に
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雨がポツポツと地面を濡らす。

(さっきまで晴れてたのになぁ・・・)

山本は軒先から曇った空を見上げた。辺りは慌しく雨に濡れまいと走り出す人が通り過ぎていく。
 
(・・・ここで少し雨宿りでもしてくか)

ため息をついて、腕を組んだ。


ふと、左側の目の淵に視線を感じた。
(ん・・・?)
目だけ動かして視線の方向を見た。
(・・・オトコか・・・?)

そこには山本と同じ様に雨宿りした小柄な少年が立っていた。
一瞬、着るものさえ違えば少女にも見間違う美しい姿をしていた。
肌は恐ろしく白く、手入れが行き届いてる美しい艶の黒髪だった。
目は少々釣り目の切れ長で睫が長く黒目がちで今にも吸い込まれそうになる。


「あのさ、君さ」

思わず見とれていた山本は声を不意にかけられ、はっとする。

「ジロジロ見ないでくれる?気持ち悪い」

そう言い放つと、下から山本を睨んだ。

容姿とは裏腹な物言いに山本は呆気に取られながらも、拗ねたような少年の顔に幼さを感じて笑ってしまいそうになる。

「ごめんな。アンタ、綺麗だから見とれちまったのな。こんなに綺麗な奴、女でも中々最近は見ないからさ」

「・・・それって馬鹿にしてるの?」

少年はますます怪訝そうに山本に食いついた。

「僕は女なんかじゃない。綺麗でもない」

「そんなつもりで言ってるワケじゃないんだけどなぁ。んー・・・・怒った顔も、アンタやっぱり可愛いなぁ・・・・」

「僕は綺麗でも可愛いでもないっ!」

少年がかっとして手を振りかざした手を山本は瞬時に受け止め腕を捕まえた。

「あはは、気ぃつえーなアンタ」
「離せ」
「名前教えてくれよ。また会えるようにさ」
「嫌だね、誰が君なんかに。いいから離して」
「教えてくれるまで離さねぇーって言ったら?」
捕まえた腕を引き寄せた。
顔を近づけて、正面で少年を見る。
やはり美しく端正な顔立ちをしている。

「ふっ・・・ふ・・」
少年は突然、山本の顔を見上げ笑い始めた。
「・・・?・・・・どうした?」
「んじゃ付いておいでよ。教えてあげるよ」

少年は不敵に笑った。




「知りたいんだろう?僕の名前」

誘うような、甘美な台詞だった。
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